2024年11月22日(金)

「最後の暗黒大陸」物流の〝今〟

2023年8月24日

海外のトラック輸送との本質的違いは

 それでは、運送業の労働生産性が日本の2倍以上の米国のトラック運送業の実態は、どのようになっているのだろうか。残念ながら筆者の知る限り、日本の「トラック輸送状況の実態調査」に相当する調査が米国のトラック輸送を対象に行われたことは確認できていない。そこで、写真1をご覧頂きたい。

 3枚の写真は米国の典型的な物流センターで筆者が撮影したものである。左は、トラックの荷台の高さに合わせて設けられた高床式ドックの戸前に、トレーラーが荷台から切り離された「台切り」されている状態である。中央はトレーラーが同センタードック前の庭先(ヤード)に台切りされている状態で、そして右はヤード内でトレーラーを取りまわすための簡易ヘッド(ヤードミュール)を示した写真である。

 米国における貸切(TL=Trailer Load)輸送においては、ドライバーは手待ちも荷役もせずに、荷主の戸前あるいは庭先にトレーラーを台切りして置いて行く。以降の荷役作業は全て荷主側の責任で行われる。ヤードに台切りされたトレーラーのドックへの移動についても、荷主側の責任において、ヤードミュールで行われることが多い。

 トラック運送業者のドライバーは、実入りトレーラーが空になる頃に次の実入りトレーラーを運んできて空トレーラーを引き取り、空トレーラーが実入りになる頃に次の空トレーラーを運んできて実入りトレーラーを引き取る。

 つまり、米国のBtoBの貸し切り輸送のドライバーには、基本的に手待ち時間も荷役時間もないのである。もちろん、日本の不特定多数の荷主企業の貨物を1台の車両にまとめて積載する特別積み合わせ(特積み)に相当するLTL=Less than Trailer Load輸送も含め、トレーラーを台切りするわけにはいかない場合もあるので、一定の手待ちは発生することもある。しかし、それは荷主が荷役を行っている間の手待ち時間であって、荷役が始まる前に発生する日本の手待ち時間とは根本的に異なる。

「2024年問題」の本質に向き合え

 米国のトラック運送においては、多くの場合ドライバーは、トレーラーという「箱」を荷主の戸前或いは庭先に台切りすることにより、手待ちからも荷役からも解放されている。それに対して日本のトラック運送においては、単車と呼ばれる荷台と運転台が分割されないトラックが使用されているが故に、多くのドライバーが1990年以来の規制緩和の流れの中でサービス役務として始まった手待ちと荷役作業に縛り付けられている。

 全てではないかも知れないが、これが日本と米国の運送業の労働生産性の較差の核心、そして「物流の2024年問題」の本質を構成する大きな要素ではあることは間違いないだろう。

 しかし、多くの皆さんは、トレーラー輸送という仕組みは日本の25倍の面積の国土を有する米国であればこそ可能なのであり、狭い日本では不可能であると考えておられるのではないだろうか。本当に日本は、トレーラー輸送が不可能なほど狭いのか。

 次回は、その点について少し突っ込んで考えてみたいと思う。

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