2024年12月21日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年4月27日

 軽貨物運送のドライバーである鈴木純生さん(仮名、48歳)は、ハードな毎日を過ごしている。午前4時に起床し、朝食や身支度を済ませた後、午前5時過ぎに軽バンで自宅を出る。元請け運送会社の事業所に到着する午前6時からは、自身がその日に配達を担当するエリアの荷物を軽バンに積み込む作業に取り掛かる。もちろん、すべて手作業だ。

(MINT IMAGES/GETTYIMAGES)

 朝一の力仕事を終えて、元請けの事業所を出発するのは午前7時半。以降は担当エリア内でひたすら配達と集荷を繰り返す。事業所に帰還するのは午後6時で、1日の拘束時間は12時間に及ぶ。

 しかもその間、休憩はほとんど取ることができない。配達、集荷ともに約束した時間帯に顧客を訪問しなければならなかったり、不在だった届け先に再配達に出向いたり、常に時間に追われているためだ。

 鈴木さんは個人事業主として元請けと業務委託契約を結び、この仕事を月に25日間受託している。1日当たりの売り上げは平均1万8000円で、月に45万円程度の収入を見込む。さらに平日の月曜から金曜日は夜間帯にフードデリバリーの仕事を掛け持ちし、月に6万円ほどを稼いでいる。約50万円の収入の中から、燃料代、車両代(リース費用など)といった諸経費や、税金・社会保険料などを差し引くと、月の手取りは約35万円前後になる計算だ。

 これにパートタイマーとして働く妻の月数万円の収入を加えて、中学生の娘を含む家族3人の生計を立てているという鈴木さん。毎日の長時間労働で肉体的な負荷は大きいものの、「贅沢をしなければ、家族3人が普通に生活していけるだけの収入を、いまは確保できている。だが、来年4月以降はどうなるかわからない」と漏らす。

個人事業主を苦しめる
コスト負担増

 鈴木さんに限らず、現在、多くのトラックドライバーたちが懸念しているのは、労働時間に対する規制の強化だ。

 トラック運送業はこれまで、仕事としての特性上、拘束時間が長くなってしまう職種であるとの理由から、労使間で協定(36協定)を結べば、協定で定めた時間までの時間外労働(以下、残業)が認められてきた(実質、残業は無制限)。鈴木さんのような個人事業主の場合も、元請けとの間で業務委託契約を交わすことで、事実上、拘束時間制限の縛りを受けずに何時間でも働くことができた。

 ところが、来年からは、それはできなくなる。しかも、会社に雇用されているドライバー(労働者)だけでなく、鈴木さんのような個人事業主も、荷主や元請けといった使用者側に配慮義務が課せられることで、規制の対象に含まれることになった。

 今回の法改正は、過労死の防止などトラックドライバーの労働環境の改善を目的としている。ところが、肝心のドライバーたちからはそれほど歓迎されていない。むしろ「働く時間が減ることで、収入も減ってしまうのではないか」(都内で働く20代軽貨物ドライバー)と危惧する声が上がっている。

 実際、残業時間や拘束時間の制限はドライバーの収入面に負の影響を及ぼしそうだ。鈴木さんのケースで見ると、1日12時間拘束で25日稼働している現状は1カ月の拘束時間が300時間となり、制限基準の「284時間以内」を超えている。したがって来年4月からは働く時間を減らす必要がある。


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