2024年11月21日(木)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年4月27日

 鈴木さんは荷物1個を配達すると130円、集荷すると同65円が収入になる歩合制で元請けと契約している。規制によって働く時間が減ってしまうと、当然、1日に捌ける荷物の量も減るため、売り上げ減を余儀なくされる可能性が高い。

激増する宅配便の個数 (出所)国土交通省

 来年4月に向けて、鈴木さんはすでに元請けから1日当たりの労働時間や月間の稼働日数の削減を打診されているという。提示された勤務シフトは「拘束12時間の22日稼働」や、「拘束12時間の15日稼働プラス拘束6時間の10日稼働」など。もっとも、いずれのパターンを選択しても、現状よりも売り上げが減るのは確実だ。

 燃料価格の高止まり、車両やタイヤの価格上昇など、コストアップ要因が山積する中での売り上げ減は、手取り額の減少に直結する。

 鈴木さんは「体力的にはしんどい仕事だが、それなりに稼げるのが魅力だった。しかし、この先は稼げなくなっていくのであれば、今の生活を維持するためにも、トラックドライバーは辞めて新しい仕事を探すしかなくなる」と腹を括っている。

 個人事業主だけではない。会社に所属するドライバーたちも来年4月以降は賃金ダウンを強いられるケースが相次ぎそうだ。

 ある大手物流会社が実施した賃金シミュレーションによると、ドライバーの時給を1700円(男性ドライバー平均=全日本トラック協会21年度調査データに基づく)、月間所定労働時間を176時間(22日稼働、週休2日弱)に設定し、現行法下で認められている拘束時間上限293時間、時間外労働の上限95時間まで働いた場合、ドライバーの1カ月の賃金は50万1100円(所定内賃金29万9200円+時間外賃金20万1900円)となる。

 それが23年4月からは割増賃金率の引き上げ(月60時間を超える残業分は割増率が25%から50%に引き上げ)に伴い、時間外賃金が一時的に21万6800円まで増える。所定内賃金との合計は51万6000円で、従来よりも総額で1万4900円アップする。ところが、来年4月には残業時間が月80時間に制限されることで、時間外賃金が17万8500円に落ち込み、合計の1カ月賃金も47万7700円まで減額となる計算だという。

 そもそも、トラックドライバーは、労働時間が長い一方で、稼げない。このうち、長時間労働の実態は、法改正による残業時間と拘束時間の減少で改善に向かう公算が大きい。ただし、それと並行して、年間所得額も減っていくのであれば、職業としての魅力はより薄れてしまう。その結果、ドライバーの高齢化や担い手不足といった運送業界が抱える問題がさらに深刻化する恐れがある。

 ある大手物流会社の経営幹部は、「かつては『忙しくても稼げるから』と割り切ってハンドルを握るトラック運転手が少なくなかった。それが1990年の規制緩和以降、運送会社間での競争激化で『忙しいのに稼げない』仕事になってしまった。働き方改革が求められる今後は『残業時間が減ったとしても、それなりに稼げる』仕事にならないと、担い手は集まらないだろう」と指摘する。

期待薄なドライバーの
賃金アップ

 安定的な人材確保に向けて〝カギ〟となるのは、ドライバーの賃金アップの実現だ。そのためには、賃金の原資であるトラック運賃の引き上げが欠かせない。2017年の「物流危機」の際には、「ドライバーの待遇改善」を名目に、ヤマト運輸をはじめとする大手宅配便会社を中心に展開された値上げ要請が広く受け入れられた経緯がある。24年へのカウントダウンが始まった今回も値上げ容認の機運は高まっている。

 もっとも、「当時、値上げ分がわれわれのような下請けに還元されることはなかった。配達や集荷の請負単価は据え置かれたままだった。『2024年問題』で、元請けは昨年末あたりから再び荷主との値上げ交渉に臨んでいるようだが、たとえ成功したとしても、値上げ分は元請けで吸収されるだけ。前回と同様、われわれや末端のドライバーたちが恩恵を受けることはなさそうだ。まったく期待していない」(大手宅配便会社の下請け軽貨物運送会社の経営者)という。

 かつて筆者は、残業代の未払い問題が発覚したことで「働き方改革」を進めた大手宅配便会社のドライバーを取材したことがある。残業を含めた勤務時間が減った結果、年収がダウンした。そこで減収分を補うために「副業」をはじめるドライバーが複数いた。この会社の「働き方改革」は、あっという間に「形骸化」してしまったのだ。

 今回の「2024年問題」「改善基準告示」と呼ばれる「働き方改革」は、宅配を含めたトラック運送業界全体に網をかける仕組みだ。国は「規制」をつくることで仕事をしたつもりになれるかもしれないが、やむにやまれぬ事情があるドライバーたちは、地下に潜らざるを得なくなる。結局、この「働き方改革」も「形骸化」することになるのではないか。

 
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最後の暗黒大陸・物流 「2024年問題」に光を灯せ
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トラック運送業界における残業規制強化に向けて1年を切った。「2024年問題」と呼ばれる。 しかし、トラック運送業界からは、必ずしも歓迎の声が聞こえてくるわけではない。 安い運賃を押し付けられたまま仕事量が減れば、その分収益も減るからだ。 われわれの生活を支える物流の「本丸」で、今何が起きているのか─。


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