済州島出身の元財閥企業グループ経営者の冷静な深慮
8月22日。済州島南部の海辺の公園で2人組の60代後半の男性から声を掛けられた。2人は地元出身の幼馴染。1人は地元の網元で漁業組合の幹部らしい。網元曰く「この友達は大手財閥グループの経営者で最近引退して地元に戻ってきた。小学生の時から優秀な子供だったよ」とハングルで紹介。韓国の濁酒であるマッコリを飲みながら3人で歓談。
そのうち元経営者が福島原発処理水について日本人はどう考えているかとズバリ聞いてきた。難しい話なので英語で安全性や日本人が福島産農水産物をフツウに食べていることを説明した。
元経営者は慎重に細部を確認しながら筆者の話を段落ごとに区切ってハングルで網元に伝えた。網元は興味深そうに聞いて大きく頷く。そしてたまに網元が質問する。この繰り返しである。
元経営者は自分の意見は一切述べずに筆者と網元の対話を丁寧に通訳した。さらに慰安婦問題、徴用工問題と元経営者は話題を広げたが、彼は一貫として中立かつ客観的な通訳に徹していた。しばらくして筆者は元経営者が筆者の述べる見解・論点については日本や海外からの情報で以前から認識していたらしいことに気づいた。そして日韓諸問題に関して筆者の見解を概ね是としているようだった。
さすがに財閥グループのトップともなると語学も含め海外事情にも精通していると感嘆。そして自分の意見を封じて日本人の率直な見解を地元の有力者の網元との対話を通じて引き出すという姿勢に深慮と奥深さを感じた。韓国の保守本流の国際派知識人の叡智に触れることができた夕べであった。
外国航路の元船長の福島処理水への判断
8月25日。奇しくも福島処理水放出開始日の朝、麗水の海洋博覧会記念公園で商船会社の元船長と出会った。キャプテン・リムは現在でも週に何回か麗水港のパイロットを勤めているが、年に数回は海外遠征してトレッキングするのが趣味と。今年秋はヨーロッパアルプス、来年はアンナプルナを予定していた。
福島処理水について聞かれたので簡単に説明したら、「科学的に国際安全基準を満たしていて、他に現実的な解決法がないなら仕方のないことですね」と満足そうに頷いた。国際経験豊富で経済的に余裕があり健康にも恵まれているキャプテン・リムは反日正義という狭小なドグマを超越しており、科学的合理性があるなら処理水放出に反対する理由はないのであろう。
婦人服製造販売会社の75歳の女社長の政治感覚
9月14日。ソウル近郊の河南市。ある大きな婦人洋装店の軒下で雨宿りたら、中から恰幅のよい中高年女性が手招きしている。彼女は婦人服製造卸会社の社長で御年75歳。若いころ米軍相手の商売でもやっていたらしくブロークンなカタコト英語を話す。ハングルと英語のチャンポンでスムーズに意思疎通できる。
韓国の政治家はレベルが低いとこき下ろし、特に最大野党党首の李在明イ・ジェミョンは韓国の恥さらしだと罵倒。福島処理水で非科学的発言を国内外で繰り返してIAEAからは相手にされず、挙句の果てはハンストして同情を買おうとしていると批判。
当時は李在明を巡る数々の疑惑が明らかになり逮捕寸前という状況であり、福島処理水を巡る反対運動も些か下火になってきたと思えた時期であった。彼女にとり婦人服の売上高を左右する金利と景気動向が喫緊の政治課題であり、デマや妄言で社会の関心を得ようとする野党は許せないとのこと。
韓国民が反日正義というドグマを一旦脇に置いて、科学的知見を理解して冷静に客観的に福島処理水問題を考えることを切に望んだ。
以上 第2回に続く