具体的には全面的な地上侵攻を断念し、「空爆強化」と「標的を絞った精密攻撃」に作戦を転換するよう求めているという。米側は精密攻撃に長けた特殊部隊の投入を勧めている。地上侵攻は①民間人の被害を拡大、②人質解放交渉を破綻、③中東全域に戦闘を拡大――させると恐れているためだ。
イスラエルから地上侵攻の作戦内容を聞かされた米当局者らは「戦闘が泥沼になるリスクがある」との懸念を強めたとされる。バイデン大統領はイスラエルに対し、民間人の被害拡大を抑えること、中東の将来的なビジョンを持つこと、戦争が終結したあかつきには、イスラエルとパレスチナ独立国家の「2国家共存」が不可欠であることなどを求め、イスラエル擁護一辺倒を軌道修正した。
イスラエル国内の方針も割れる
現地メディアや同紙などによると、そもそも侵攻が遅れたのはネタニヤフ政権内の不一致もあるようだ。「侵攻すべきなのか」という根本的な問題でも一枚岩ではない上、「いつ」「どうやって」侵攻するのか、という点でも対立がある。ネタニヤフ首相は侵攻の最終計画について、戦時内閣に関わる全員の賛成を望んだが、一部の軍幹部が署名を拒否し、首相が激怒する場面もあった。
ネタニヤフ首相は地上侵攻の目的として①ハマスの壊滅、②人質の解放の2点を挙げているが、政府内では、人質解放をどの程度優先すべきか、市街戦でのイスラエル側の損害、侵攻のやり方、レバノンのヒズボラなどによる戦線拡大の可能性―などをめぐって対立がある。ガラント国防相はヒズボラもハマスと一緒に叩くと主張し、首相とやり合ったといわれる。
特に、侵攻のやり方については、一気に全面侵攻に踏み切るのか、または小規模の限定的な侵攻を連続して行うのか、をめぐって意見が割れたという。だが、ネタニヤフ政権は人質解放交渉の難航や頼みのバイデン政権の姿勢の変化、また国連総会での「休戦決議」採択などイスラエルに対する国際包囲網が強まったことで、このままでは地上侵攻に支障が出るとの焦りを深めていた。
ベイルート筋は「政権内の意見対立をいったん棚上げにし、侵攻の既成事実を先に作るため〝なし崩し的〟に戦車や地上部隊をガザに越境させた可能性が高い。事実上の侵攻開始だ」と指摘している。ネタニヤフ首相は「厳しく長い戦いになる」と訴え、ガザ域内での戦闘を激化させる方針を表明した。
このほか政権内で決着のついていない議論が2つある。1つはハマスの壊滅を最終的にどうやって確認するのかという問題だ。そもそも壊滅の基準をどう設定するのか、ガザの最高幹部の抹殺をもって壊滅とするのかなど、結論は出ていない。
もう1つは「ハマス以後」のガザを誰に統治させるかだ。選択肢としては①イスラエル、②パレスチナ自治政府、③国連などの委任統治――などが考えられるが、イスラエルは廃墟となったガザ再建の重荷を背負うことには断固拒否する構えだ。