米国とイランのせめぎ合い
ガザでの交戦が激化するにつれ、ハマスに連帯を示すレバノンのシーア派組織ヒズボラのイスラエル攻撃が目立ってきた。ヒズボラはイランが育て上げた組織だ。
今のところ攻撃は限定的で大規模な戦闘には発展していない。しかし、ガザ地上侵攻が現実になれば、攻撃がエスカレートする恐れは十分にある。
数日前にはヒズボラの指導者ナスララ師がハマスとガザの過激派「イスラム聖戦」の幹部とベイルートで会談した。連帯を示そうとしているのはヒズボラだけではない。やはりイランの支援を受けるイエメンの武装勢力フーシ派がイスラエルに向けて3発の巡航ミサイルを発射、紅海の米駆逐艦が撃墜する事件も発生している。
米軍に向けての攻撃も続発している。米軍はイラクに2500人、シリアに900人が駐留しているが、このところ無人機(ドローン)やロケット弾の攻撃にさらされ、19人が負傷した。イラン支援の民兵による攻撃とみられている。これに対し、米軍がシリアで27日、イラン革命防衛隊やイラン支援の民兵が使用していた武器庫2カ所を爆撃した。
バイデン大統領は最近、こうした不穏な動きの背後にイランが介在していると断じ、イランの最高指導者ハメネイ師に「米軍を攻撃したらやり返す。覚悟すべきだ」と警告のメッセージを送っていた。今回は警告を現実にうつしたものだが、米軍の強力な実行力を誇示する一方で、戦線を拡大させない程度にとどめるという周到に計算した攻撃だったようだ。
バイデン政権はハメネイ師が米国との直接衝突を望んでいないとみなしており、この警告でイラン側の挑発が鎮静化することを狙っている。しかしヒズボラなどがイランの思惑を超えて攻勢を仕掛けるリスクもある。緊迫するガザ戦争の舞台裏で、米国とイランの熾烈なせめぎ合いが続いている。