2024年5月18日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2023年11月4日

ポストコロナにおける
国際機関のあり方とは

 だが、国際機関が果たす役割が、コロナ前と本質的に変わるとは思われない。国際機関は、多国間主義という原則を基盤に、限られた権能を駆使し世界の問題に対処していくであろう。コロナ危機で、国際組織の存在意義が完全に否定されたわけではない。

 WHOのテドロス事務局長が先進国と途上国のワクチン格差を指摘し、先進国に対し3度目のワクチン接種に自制を促す発言を行った。この発言は強制力を持たないが、WHO以外にこのような声を上げる存在はない。国際連合やその専門機関であるWHOやUNHCRが、人類全体の平和・安全という目的遂行を目指し、発言や活動を積み重ねてきたことも事実である。

 国際機関は大国中心であるといわれるが、大国が賛成しない問題でも、進展がみられる場合もある。例えば、核兵器禁止条約だ。ノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)である核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)を母体として市民運動が高まり、核兵器禁止条約が国際連合で採択に至り、その批准国を増やし、この条約は発効した。核兵器保有国は、この条約を批准することはないだろうが、核兵器は禁止すべきという条約上の合意が生まれた。

 このコロナ危機の間にも、地球温暖化に関する議論は継続し、持続可能な開発目標(SDGs)について認識も高まっている。温室効果ガス削減やSDGsも、未来のあるべき世界を考えた目標といえる。これらの目標は、この世界で「望ましいこと」を具体化したものといえる。

 長期的に歴史をみると、かつて是認されていた行為、例えば植民地支配やジェノサイド(民族大量虐殺)が、国際条約や国際連合決議によって、「よくないこと」として明示され、「よくない」行為の廃絶や抑止に寄与してきた。国際機関には、現場での活動に加えて、世界の「善意」と「理想」を提示する機能も備わっている。

 平和で豊かな国際社会を作るには時間がかかり苦労も多い。何よりも国際機関を有効に機能させるためには加盟国の協力が必要である。国際連盟は46年に解散するが、その前年に国際連合が設立されていたにもかかわらず、ノルウェー(終戦までドイツの占領下)とスイスは46年の加盟国分担金を全額支払った。戦後経済的に苦しい中で最後までその義務を果たした加盟国もあったのである。自国が困難に直面する時、他国や国際社会全体に思いを巡らすのは難しいが、国際機関が存在しなければ、世界はもっと暗黒だろう。

(2021年11月号掲載)

『Wedge』2021年9月号から23年8月号にかけて掲載された連載『1918⇌20XX 歴史は繰り返す』が「Wedge Online Premium」として、電子書籍化しました。アマゾン楽天ブックスhontoなどでご購読いただくことができます。

 

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る