学習指導要領では、探究的で知的好奇心を喚起するような授業の実践が謳われているが、小学校の教員が勤務時間内に授業準備に充てる時間はない。そもそも勤務時間は16時40分までが一般的だが、児童が帰るのは16時。それからの40分間は、例えば児童同士の揉め事の仲裁のために保護者に電話をするなど、トラブル対応に費やしている。若手教員はその後、20時、遅いと22時まで教材研究をやる。もちろん、やらずに帰宅する教員もいるが、勤務時間にできるはずがないことを強制したり、やらないことを責めたりする資格は誰にもないはずだ。
近しい間柄にある中学校の教員の働き方を見聞きすると、その忙しさは小学校とは次元が違うと感じる。部活動などで生徒の在校時間が長く、土日には部活動の引率もあるうえ授業の専門性も深いからだ。せめて、国が一度狼煙をあげた「部活動の地域移行(民間委託)」をやりきってほしい。
VOICE3
「保護者に寛容さがなくなった」
二十数年前と比べ、教員は保護者から厳しく評価されるようになったと感じる。1年目の新任であれ、30年目のベテランであれ、同じ基準で評価され、「こんな授業で大丈夫か」「隣のクラスの先生の方がいい」と比較される。私が新任の頃は、保護者の温かさや寛容さに何度も助けていただいた。しかし、今では教員が何かミスをすれば厳しく指摘される。
例えば、ある児童にプリントの宿題を配布し損ねると、保護者から「うちの子が授業についていけなくなったらどうしてくれるのか」などとしつこく連絡がくる。「ごめんなさい」「気をつけます」では許していただけないこともある。教員はメールの連絡網で「本日は宿題を渡し損ねた生徒がいたため宿題はなしにします。申し訳ございません」と謝罪をしなければならない。こうした小さな積み重ねにより教員の負担は増えている。
社会全体の考え方が変わらない限り、教員の業務は膨らむ一方だ。
VOICE4
「管理職が取捨選択できない」
社会の要請に合わせ学校現場でやるべきことが増えるのはやむを得ないが、時間は有限なので何かを削らなければビルド&ビルドで処理ができなくなる。それを差配するのが管理職の仕事だが、取捨選択ができていない学校は多い。
学校にはさまざまな問題が持ち込まれるし全ての対応を求められる。中には子ども同士で発生したトラブルについて「裁判沙汰にする」と脅してくる保護者もいるが、現場は彼らに対応する術を持ち合わせていない。一度トラブルが発生すると管理職や担任の教員はかかりっきりになる。当然、質の高い授業を実施するための授業準備は疎かになる。無理難題を押し付けられたときに守ってくれる専門の対応者がいれば負担はだいぶ軽くなる。国は本来教員がすべきではない、学校現場が困っている仕事に、「人」や「金」というリソースを割いてほしい。