2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年11月24日

 ソフトウエアとしては、道徳規範、公共心、価値観、それらに根差す公正な行動、道義や原則を喚起し順守する意識、そうした意識を涵養する各国民の、各家庭の、各地域社会、各企業の活動も抑止力の構成要素となる。

 米国の抑止力低下の大きな課題は、ハードウエアより寧ろそのソフトウエアにあるように思える。前政権の大統領の行動様式、それを受け入れて支持もする決して少なくない数の白人系米国民の存在、彼らの持つ国家観、国家指導者への期待感、米国の平均的家庭や学校の公共意識、犯罪件数、若年層の行動類型など、世界の米国への敬意が徐々に、或いは急激に、剥がれつつあることは、その抑止力に錆が廻りつつあるようだ。

 米ソ冷戦時代、米国の軍事経済両面の国力は挑戦者を寄せ付けなかった。共産主義の硬直的経済体制が自由な市場経済に勝てるはずはなかった。ソ連と中共は決して一枚岩ではなかった。

 非同盟中立諸国の数は急速に増加していったが、経済規模は甚だ微小だった。中国は自らを途上国と称してそれら諸国に取り入っていたが、中国自身の国力が小さかった。

 数年前に始まった新たな対立の時代において、対立の主軸は米中だが、中露は天井のない協力関係を高歌放吟する。グローバルサウスの経済力資金力は遥かに膨らみ、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国「BRICS」 などを通じて中国は世界の経済と安全保障に影響力を扶植している。中国の経済制度は市場経済の利点を便利に取り入れ、自国市場を閉鎖し自由な西側市場から技術や資金を吸収し、軍事力強化に活用している。

挑戦を受ける2つの抑止力

 米国のハードウエアの抑止力は、東アジアの海域、ウクライナ、中東でと、複数の地域で挑戦を受けている。そして中国の軍事力は静かに世界に浸透し始めている。

 フィンランド政府は10月10日、同国とエストニアを結ぶバルト海の海底ガスパイプラインと通信ケーブルが破損したことにつき、意図的な行為によって引き起こされた可能性があるとの見解を示した。その刑事調査を進めていた当局は20日、破損が起きた場所と時間が香港籍のコンテナ船「Newnew Polar Bear」の航行動向と一致した発表した。

 そして米国のソフトウエアの抑止力は、米国内において腐食し始めているように見える。中国は米国の制度の欠点を事ある毎に批判し、世界で恥をかかせている。

 民主主義も含め価値観は多様だというナラティブを拡散させている。来年の大統領選挙はその一里塚のように見える。

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