2024年11月22日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2023年12月8日

 世界保健機関(WHO)が2015年に公表したガイドライン「成人と小児における糖類の摂取」によれば、砂糖や果糖などの遊離糖の摂取を減らせば体重が減り、増やせば体重は増える。しかしこのときに摂取エネルギーが変わらないように調節すれば体重が変化しない。疫学調査では食事の糖質を減らして脂質を増やすと肥満になり、逆に糖質を増やして脂質を減らせば肥満が減る。

 糖質を脂質に変えることで食事のカロリーが増えれば肥満になることは理解できる。ということは、肥満の原因は砂糖ではなくカロリーオーバーの結果という常識的な結論になる。しかしこの常識は正しいのだろうか?

グリセミック・インデックスか?

 グリセミック・インデックス(GI)は摂取した糖質50gが血糖値を上げる速度を示す指標で、ブドウ糖を100として表す。GIが高いほど血糖値が急激に上昇し、インスリンによる血糖の調節機構が破綻して、肥満や糖尿病のリスクが高まると考えられている。

 砂糖はGIが高いから肥満を起こすといわれるが、砂糖のGIは59~110であり、小麦や米の45~91とほぼ同じである。ただしGIはさまざまな条件で変化するので注意を要する。

 もう一つの指標であるグリセミック・ロード(GL)は食品のGIと糖質の量を掛け合わせたもので、GLが高いほど血糖値が大きく上昇し、肥満や糖尿病のリスクが高まると言われる。砂糖のGLは7~110、小麦や米は9~36なので砂糖のほうが高い。だから砂糖が肥満の原因とは必ずしもいえず、食事に含まれる砂糖の量から判断する必要がある。

ローカーボダイエットとは?

 ローカーボダイエットは、砂糖や穀物などの糖質を制限し、代わりに肉、魚、卵、乳製品などのタンパク質や、オリーブオイル、ココナッツオイルなどの脂質を摂取するダイエット法で、体重減少効果が認められて広く実践されている。1972年に提唱されたアトキンスダイエットがその代表である。

 しかし糖質を減らして脂肪を増やせば摂取カロリーは増える可能性がある。にもかかわらず体重が減少するということは、肥満の原因はカロリーオーバーという常識に反する。そこで低糖食と低脂肪/低カロリー食の効果を比較した結果を見ると、低カロリーより低糖食の方が体重減少効果は大きい。さらに食事の時間を正午から午後8時に制限するほうが、カロリー制限より体重減少効果が大きいという研究結果もある。

 カロリー制限とは食事制限であり、空腹感のため継続できない人が多い。だからカロリー制限をしないダイエット法に人気があり、持続可能性がある。糖質制限で体重が減る理由は、血糖値の急激な上昇を抑えることでインスリンの急激な分泌を抑制することだ。

 インスリンは脂肪の貯蔵を促進して肥満を起こすので、インスリンが減れば肥満は抑制されるという考え方だ。また糖質を減らすと脂肪をエネルギー源とするケトン体代謝が促進されるので体脂肪が燃焼し、肥満を抑制する。この説が正しければ、悪者は砂糖ではなく糖質ということになる。


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