これは、中国が最高実力者鄧小平氏以来、毛沢東時代の共産主義イデオロギーに代わり踏襲してきた「国家資本主義」ともいうべき従来の柔軟路線を根本から覆したことを意味している。
すなわち、ラッド氏によれば、習近平指導体制下では、共産主義を見捨てるどころか、逆にマルクス・レーニン主義のイデオロギーこそが今日、政治、経済そして外交政策の中核的役割を果たしており、具体的には「政治は左翼レーニン主義、経済は左翼マルクス主義、しかし外交は右翼国家主義を志向している」という。
そして、習近平氏は国家主席就任以来、①公共政策から市民生活のすべてに至る中国共産党の統制と支配を一層強めてきた、②あらゆる国営企業を再活性化させてきた、③逆に私企業の活動に対する新たな規制と制限に乗り出した――という判断を示している。
さらに、このような習近平氏の「新たなマルクス・レーニン主義」は、当然のことながら、国内のみならず世界との関係にも投影されることになる。
ラッド氏は次のように断じている:
「彼は、一段と強引な外交政策を推進することで国内的にもナショナリズムを掻き立ててきた。しかもその外交は、『歴史は不可避的に中国へ味方しており、中国パワーの錨でつながれた世界こそがより公正な国際秩序を生み出す』とのマルクス主義的確信に支えられ、ますます勢いづいている。すなわち、習近平の台頭は、(毛沢東時代の)『イデオロギー指導者Ideological Man』の復帰以外の何物でもない。
こうした純正のイデオロギーと専門知識に支えられたテクノクラート的プラグマティスムがブレンドされた彼の世界観については、西側世界では真面目に受け止められていないが、まさにこれこそが、今日の現実世界における中国政治・外交、そして対外拡張に深遠なインパクトを与えているのである」
上記のような習近平体制に対する評価は、中国が今世紀に入り、とくに2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、硬直化した共産主義から脱皮し、自由主義世界の市場経済体制の中に組み入れられてきたとする楽観的認識をバッサリ打ち消した点で注目に値する。
強気の外交姿勢への転換
中国は拙速な対外勢力拡張を控え、自らの才能を隠して内に力を蓄えるべきだとする鄧小平氏の有名な思想「韜光養晦」(とうこうようかい)についても、習近平氏はこれまで公式の場で何度も異議を唱えてきた。
習近平氏が、鄧小平-趙紫陽―胡錦濤体制時代とは異なる強気の外交姿勢に転じた点については、英誌「Economist」も、去る3月15日に開催された「中国共産党・世界政党上層部対話」で公表された「グローバル文明イニシアチブ」を例に挙げ、同様の論陣を張っている(同月23日付け)。