昨オフの契約をみても、メッツの千賀滉大投手は5年総額7500万ドルで当時のレートで平均年俸が20億円に迫った。ソフトバンク時代の最後のシーズンが推定6億円だったので、3倍以上の評価を得たことになる。オリックスからレッドソックスへ移籍した吉田正尚選手も5年総額9000万ドル(当時のレートで約126億円)で、オリックス時代の最後の推定4億円から6倍以上に跳ね上がっている。
20年で開いたビジネス規模
これだけのビッグマネーが動く背景には、急成長を見せるMLBの市場規模がある。12月11日付の日本経済新聞によると、「MLBの総収益は17年に初めて100億ドル(約1兆4480億円)を突破。新型コロナウイルス禍の苦境から反転して22年は108億ドル(約1兆5638億円)に達した」と好調を持続する。
収益を牽引しているのが、莫大な放映権料だ。米メディアの報道では、ターナー・スポーツと22年から28年までの7年総額37億ドル(約3900億円)、FOXとも22年以降に7年51億ドル(約5400億円)、DAZNとも3年3億ドル(約315億円)の契約も決まっている。
MLBは全米での放映権などの権利をリーグが一括管理し、利益は30球団に均等に配分する。地元向けのケーブルテレビを除き、全米やネット配信の放映権は各球団がリーグに権利を委託し、収益を最大化する仕組みで、資本力のある大都市圏の球団に限らず、全球団が毎年1500億円規模の放映権料が手にする。
近年は日本にも増えてきた「ボールパーク」と呼ばれるスタジアム内の収益構造も貢献大だ。一般的な観客席のほかに、「シーズンシート」を積極的に販売し、法人や富裕層向けのスイートやクラブシートをそろえてチケット単価を上げる戦略を取る。フォーブズジャパンのオンラインサイトによれば、22年シーズンは、チケット販売(64%増)やプレミアム座席(スイートとクラブシート)の売り上げ(35%増)の伸びが総収入を押し上げたとしている。
今となっては、桁違いの市場規模を持つMLBだが、実は1995年当時はMLBとNPBにそれほどの開きはなかった。
小林至氏著の「野球の経済学」(新星出版社)によれば、95年のMLBの市場規模が1400億円、NPBが900億円。それが、2018年にはMLBが1.1兆円、NPBは1800億円と格差が大きく開いている。
「クローズドリーグ」と「オープンリーグ」
米国には野球だけでなく、アメリカンフットボールのNFL、バスケットボールのNBA、アイスホッケーのNHLに加え、メジャーリーグサッカー(MLS)も人気だ。
MLBにとっては、他のスポーツに負けない魅力的なコンテンツをリーグ全体で作り出し、収益を最大化していくことで米4大スポーツの他競技とビジネス面でしのぎを削っている。アメリカ型のプロリーグは「クローズドリーグ」と呼ばれ、「オープンリーグ」と呼ばれるヨーロッパのプロサッカーと違ってチームの昇降格がない。
オープンリーグは資本力があるクラブチームが選手補強などを積極的に展開して昇格し、経営が苦しくなったクラブは下部リーグへ入れ替わる。しかし、「クローズドリーグ」は経営に行き詰まった球団があっても、降格などで切り捨てることはできない。つまり、既存球団は競技面では勝敗を争うライバルであっても、ビジネス面では手を結んで「共存共栄」しているのだ。