2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2023年12月27日

シェール革命が変えた米国の発電事情

  17年のCOP23において英国とカナダが立ち上げた脱石炭連盟(PPCA)は、欧州、島嶼諸国などを中心に参加国が増え、COP28においては米国など7カ国が新たに参加し60カ国になった。

 米国のジョン・ケリー大統領特使(気候変動問題担当)は、COP28の場で脱石炭に関し「2035年までにCO2を100%排出しない電力を達成するため、対策が取られていない石炭火力を廃止する必要がある。世界の国々にこの動きに参加するように促したい」と発言した。

 ケリー特使には気の毒だが、米国は温暖化対策のため脱石炭を進めたわけではない。米国の石炭火力減少に大きな影響を与えたのはシェール革命だ。シェール層からの安価な天然ガス供給は、石炭火力の燃料転換を促した。

 石炭火力は第二次世界大戦後長い間米国の電力供給の約50%を担っていたが、シェール革命が本格化した2000年代後半から、天然ガスに対し価格競争力を失い、発電量シェアも失った(図-5)。

 バイデン政権が目的とする電源の35年までの脱炭素化の実現は見通せない。筆者は今年4月の米国出張時に、電力業界の方々と面談した。35年までの電力部門のCO2ゼロ目標達成の可能性について尋ねたところ、大笑いされた。

 「それは政府の目標であり、民間企業は知らないことだ。35年までに電源の脱炭素化ができるわけがない」というのが、答えだった。ほぼ日本の全発電量に匹敵する米国の石炭火力の発電量を短期間で他の電源に置き換えるのは難しい。今米国の発電量のうち60%はCO2を排出している。

 安定供給と発電コストを考える現場と政権の意気込みの温度差は大きい。

 米エネルギー省は現在の政策が継続される前提で世界の石炭供給量の予測を行っているが、22年の石炭供給、84億6000万ショートトン(ST)は50年88億1000万STと微増する。脱石炭には、各国の大きな政策の変換がこれから必要とされる。

 脱炭素目標と予測の間には大きなギャップがあるが、アジアの国が依然石炭火力を必要とするのもギャップの理由だ。

まだまだ石炭火力を必要とするアジア諸国

 パリ協定以前のCOPの会場で、先進国からの参加者が「排出量が増えている途上国も削減の責任を持つべきだ」とスピーチしたところ、聴衆の中にいた途上国の参加者から「あなたたちは、私たちに貧乏のままいろと言っている。そんなことを言う権利があるのか」と大声のヤジが飛んだ。会場は静まり返った。

 途上国は経済成長、国民生活向上のためエネルギー、化石燃料を必要とする。まだCO2の排出増が続く。

 1人当たりのCO2排出量がドイツを抜き日本に迫る中国と産油国を除いた途上国の1人当たりCO2排出量は、世界平均を下回る(図-6)。多くの途上国では化石燃料の消費量は当面増加する。

 経済発展が著しい中国とインドが依存しているのが石炭火力だ。中国とインドの発電量は、それぞれ日本の8.1倍、1.8倍になるが、中国は供給の6割以上、インドは7割以上を石炭火力に依存している。

 石炭火力削減を求められても、代替する安定的な大規模電源の目途がなければ不可能だ。加えてアジアの石炭火力設備はまだ新しく簡単に廃棄はできない。

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