図-7に地域別の石炭火力発電所の平均使用年月が示されている。石炭火力プラントの寿命は約40年とされるが、欧米のプラントの多くは寿命に来ている。
一方、アジアの石炭火力プラントは、今後20年から30年利用可能だ。寿命前に廃棄すると電気料金を押し上げるし停電危機を招く。大半のプラントは燃料受け入れ設備の問題から天然ガスに転換もできない。
日本のプラントは、価格競争力のある輸入炭を前提に建設されている。国内炭を前提とする欧米の石炭火力と大きく違う点だ。
脱炭素のためと言われても、安定供給と電気料金を考えると脱石炭火力は簡単ではない。それどころか、米エネルギー省の予測では、50年に向けて世界の石炭火力発電量はほぼ横ばいだ(図-8)。
脱石炭のため日本ができること
日本の電力業界は石炭に代えアンモニアの燃焼を検討している。環境活動家が騒ぐ、石炭火力の延命ではなく、まだ使える設備を有効に活用する方法だ。
問題は、CO2を排出しない方法で製造した水素をアンモニアにする必要があり、コストが高いことだ。大量導入時の燃焼に関する技術的な課題もありそうだ。
日本の石炭火力では、既に木材ペレットなどバイオマス(生物資源)の混焼が行われている。バイオマスの燃焼は光合成により大気から吸収したCO2を戻すだけなので、排出増にはならない。
バイオマス混焼をアジアの石炭火力で進めれば、排出量の削減が進む。短期間での実現が難しい脱石炭を求めるよりも、安定供給と競争力ある価格を維持しつつ、石炭火力からのCO2削減を進める現実的な手法が大切だ。
日本政府は、日本の電力会社などが持つバイオマス混焼のノウハウを、東南アジアの石炭火力発電所の事業者に提供する試みを既に実行している。
夢物語のような短期間での脱石炭火力ではなく、現実的なCO2削減策を検討すべきだし、金融機関も脱炭素技術に加えCO2削減のためアジアの石炭火力発電所改修への融資も視野に入れる必要がある。
脱炭素の道は多くある。地道な取り組みが大切だ。