昨年1年だけをみるかぎり、当初、ウォール街では「年内景気後退入り」がささやかれたが、結果的に、工業生産、消費ともに好調に推移する一方、バイデン政権発足当時、9.1%だったインフレ率も昨年末にかけて3.1%にまで劇的に改善した。失業率も、昨年12月時点で3.7%と安定した状態を維持した。逆に求人難が続いた。
今後最大の関心事は、これまで過熱気味だった景気が、11月の大統領選挙投票日にかけて、マイナスに転じることなく、うまく「軟着陸」できるかどうかにかかっている。
この点に関連し、景気変動の大きなカギを握るFRBが現行政策金利を今年度内に3回緩和する意向を示している。その利下げ幅、実施のタイミングなど不明だが、内容次第で経済全体が左右され、結果的に大統領選の勝敗にも影響してくるとの見方が広がっている。
トランプ氏の公判はいつ行われるか
今回選挙に直接影響を与える第三の要因が、トランプ氏をめぐる裁判の行方だ。
建国以来の米国政治史上、現職または退任後の大統領が刑事事件で実際に起訴されたことはかつてなかった。しかし、トランプ氏はすでに昨年、わずか5カ月の間に、首都ワシントンのほか、ジョージア、ニューヨーク、フロリダ3州において、大統領選挙妨害、暴動教唆、機密文書秘匿、不倫もみ消しなど、合計91項目にも上る罪状で立て続けに起訴されており、今後、公判出廷を待つ身となっている。
このうち、最も罪が重いとされるのが、去る20年12月3日の大統領選投票日から翌年1月6日にかけて、トランプ氏がバイデン候補の当選確定を妨害し、熱狂的トランプ支持グループによる連邦議事堂乱入・占拠を扇動したとされる事件だ。
この事件では、ジャック・スミス司法省特別検察官による徹底捜査の結果、共謀、教唆など4件の容疑で既に起訴されており、来る3月4日にその初公判が行われる予定となっていた。しかし、トランプ弁護団側は、「大統領在任中のいかなる行為も罪に問われることはない」として「刑事免責」を主張するとともに、公判日についても、大統領選挙が行われる今年11月以降に延期するよう最高裁に訴えた。
このため、スミス特別検察官がただちに最高裁に直接、トランプ氏の容疑が免責対象に値するかどうかの判断を求めるとともに、「迅速審理開始」の上訴を行った。その後、最高裁は去る12月23日、「迅速審理」含め自らの判断を下す前に控訴裁に差し戻しを命じており、結局、1月9日に予定される控訴裁裁定が待たれる。
そして、控訴裁は「1週間程度」で何らかの判断を出す予定だが、その結果を待った上で、最高裁が最終的な結論を出すことになっているため、実際に、トランプ氏の初公判が開かれるのは、当初の3月4日から最低数カ月は遅れる可能性が大きい。
同件含め4つの刑事案件の公判が大統領選投票日前に開始されるかどうかが、重要なポイントとなる。開始されれば、トランプ氏に不利になる。