新たな戦争・危機
最後に、無視しえない要素がある。それは新しい戦争や危機が起きることだ。ここ3年、毎年、大きな危機が生じ続けているから、次の1年で何も起きないとみるのは楽観すぎるだろう。21年に米軍のアフガニスタン撤退とタリバン政権の成立、22年にロシアのウクライナ侵略、23年にハマスによるテロ大規模攻撃が起きている。
これらの戦争や危機は、米国の対中戦略と関係して起きている。米国はアフガニスタンやヨーロッパ、中東から撤退し、インド太平洋に戦力や労働時間を集中させようとしている。しかし、この再配置は、上手にやらないと、問題を作り出す難しいものになってしまう。
まず、アフガニスタンでは撤退の際に米国の権威は失墜してしまった。権威が失墜すると、他の国も動き出す。
ロシアのウクライナ侵略は、米国がアフガニスタン撤退で権威を失ったころから、準備が進められてきた。もともと、米軍のヨーロッパ駐留兵力は、以前いた10万人から2万人減少させていたから、ヨーロッパが手薄な状況になりつつあった。そこにアフガニスタンからの撤退が起き、バイデン政権の実力が低くみえてしまった。プーチン大統領は「勝てる」と思い込んだ可能性がある。
さらに、米国の中東からの撤退も、ハマスの攻撃につながってしまった。米国は中東でイスラエルの保護とイラン封じ込めをできるようにしてきた。そのために、イスラエルとサウジアラビアを国交正常化させ、米国が撤退しても「留守番」ができるように画策した(「中立なインドがハマス攻撃でイスラエルを支持する理由」)。
トランプ政権末期に、米国がイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化をアレンジした時は、それがイスラエルとサウジアラビアの合意に結びつくようにみえた。政権の動きが早く、勢いがあったからだ。しかし、その後、バイデン政権になって、人権問題でサウジアラビアに制裁をかけ、この勢いは断たれてしまった。
その後3年、イスラエルとサウジアラビアの国境正常化は実現しなかった。その時間はハマスに味方したのである。
ハマスにとっては、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化は、ぶち壊しにしたい合意であった。イスラエルと合意したアラブ各国は、パレスチナ問題への関心を失うことが予測されたからだ。
ハマスは2年かけて周到なテロ攻撃を準備し、イスラエル対アラブ、といった形での戦争を起こし、この国交正常化交渉をぶち壊しにすることに成功したのである。
多くのケースで絡むインドの存在
このような経緯を見る限り、現在のバイデン政権は、反米勢力から狙われている。米国の次の大統領が決まる前に、バイデン政権の下で、次の戦争や危機が起きる可能性はある。
それは中国がらみであれば、台湾周辺かも知れないし、印中国境かも知れない。動くのは北朝鮮かも知れないし、イランかも知れない。
どの戦争や危機が起きたとしても、インドは対応を迫られる。その決断は、インド外交が今後、どういう方向性に進むか、影響を与える可能性があろう。
具体的には、米国が頼りないことが強調されると、インドは、QUADとの協力よりも、独自の道へ進もうとする傾向を強めるかもしれない。そうではなく、QUADが協力して対中国政策を一致させることができるよう、強く望むものである。