EU首脳会議を前にした12月13日、欧州委員会は凍結していたハンガリー向けの資金300億ユーロのうち、ハンガリーが約束していた司法の独立のための改革を評価して100億ユーロの凍結の解除を決定した。ハンガリーに対してはEUの通常予算による結束基金の支援金217億ユーロが凍結されていたが、このうち100億ユーロを解除する趣旨である。この他にパンデミック関連の復興基金からの支援金100億ユーロが依然凍結されているので、合計で約200億ユーロがなお凍結されていることになる。
100億ユーロの凍結解除が一定の効果を持ったらしく(これは恐喝だとの批判もある)、12月14日のEU首脳会議では、オルバンがショルツに促されてコーヒーを飲みに議場から一時退出した間に、ウクライナとの加盟交渉が決定された。しかし、彼はウクライナに対する4年間の500億ユーロの支援パッケージに対する反対は撤回しなかった。
オルバンが本当に求めるもの
彼は「自由主義で進歩主義の熱病に感染した官僚」に支配されたEUによって行動が掣肘を受けることを不快がっている。そのために、EUを「乗っ取る」と言い、フォン・デア・ライエン委員長については「われわれが決定することを実行するわれわれに雇われた従業員」として扱われるべきだなどと述べている。
ハンガリーでは、フォン・デア・ライエンとアレックス・ソロス(ジョージ・ソロスの息子)の二人の写真に「彼らの曲に合わせて踊ることはするまい」という文章をかぶせた看板が至る所に立っているという。これは、来年、彼女が欧州委員会委員長として再任を狙っていることに目をつけて、揺さぶりをかけているつもりかも知れない。
しかし、突き詰めれば、オルバンが求めているのはカネ、つまり残りの200億ユーロであるようだ。彼は、EUとの間の資金援助の問題とウクライナに対する政策の問題との間にリンクはないといっていたが、12月15日、EU首脳会議の終了に際して、彼はハンガリーのラジオ局に「半分や4分の1では駄目だ。全額が必要だ。我々は公正な待遇を要求しており、それを達成する好機だ」と述べた。
米国の対ウクライナ支援の先行きが不透明であるだけに、そして、問題は欧州の安全に関わる欧州の問題であるだけに、ロシアの侵略に対してウクライナが戦い続け得るようEUが支援し得ないようでは、その地政学上のプレーヤーとしての存在意義を問われるであろう。かといって、この社説が説くように、オルバンとカネで汚い取引や下手な妥協はすべきでない。
今やポーランドが親EU派に政権交代した好機でもあり、ハンガリーを除く26カ国の政府間合意に訴えてでも、ウクライナ支援の方途が確保されねばならないであろう。