2024年11月21日(木)

プーチンのロシア

2024年1月5日

 ナワリヌイ氏は、必ずしも絶大な人気を誇るわけではないが、獄中からでもメッセージを発し、ロシア政治を流動化させる触媒的な役割を果たすポテンシャルは秘めている。プーチン政権としては、そうしたリスクの芽を摘んでおくために、北極圏の監獄で厳重に監視することにしたのだろう。

 筆者には、ウクライナ侵攻に反対する運動や、ナワリヌイ氏解放を求める大規模なデモが近い将来にロシアで巻き起こることは、想像できない。しかし、ロシア国民も、自分に身近な社会・生活の問題で怒りを覚えれば、立ち上がることもある(さすがに上述の卵では無理かもしれないが)。しかも、政治デモなどと異なり、プーチン体制は生活に根差した庶民の要求を弾圧はしにくい。

気になるのは住宅市場

 そうした観点から、筆者が注目している分野に、住宅市場がある。ロシア国民は持ち家志向が強く、無理な借金をしてでも、住宅を買いたがる傾向がある。目下、それが過熱し、住宅バブルが発生している。

 ただ、不思議に思う読者もいるだろう。ロシアでは、年末に政策金利が16%にまで引き上げられている。そんな高い金利で、ローンを組み住宅を買う人がいるのだろうか、と。

 実はそれにはからくりがあり、プーチン政権は数年前から、持ち家促進政策として、一定の条件を満たした住宅購入者には、国の補助で優遇金利を利用できるようにしている。その制度を使えば、新築住宅を買う人は年利8%で、幼い子供がいる家庭は6%で、ローンが借りられる。

 ウクライナ侵攻開始後、ロシアの住宅市場はしばらく不活発だった。それが、23年半ば頃から、急にバブル的な様相を呈するようになった。優遇ローンの利用条件が段階的に厳格化される見通しとなり、ルーブル下落が進み、市場金利が急上昇したため、ロシア国民特有の「すぐにでも不動産に換えて資産を守らなければ」という心理が働いた結果であった。

 当然のことながら、上昇する一方の市場金利は敬遠され、国の補助による優遇ローンに申し込みが殺到した。23年の前半まで、新築住宅購入のローンに占める優遇ローンの比率は3分の1くらいだったが、同年暮れには85%程度を占めるまでになった。なお、現時点では、国の補助による優遇ローンが利用できるのは24年6月までとされており、これがさらに特需に拍車をかけている。

 当局も住宅市場の過熱は問題視しており、優遇ローンの利用条件を厳格化するため、頭金の比率を段階的に引き上げ、12月には30%とした。それでも、消費者金融で頭金の資金を借り、優遇ローンに申し込むような者もいるという。ロシア中央銀行は、こうした状況が金融市場の健全性を損なうリスクを、強く警戒している。

 思えば、08年のリーマン・ショックも、発端となったのは米国のサブプライム住宅ローン問題だった。ロシアの住宅バブルがすぐにはじけて、春の大統領選を左右するとまでは行かないだろうが、この問題が今後プーチノミクスのアキレス腱になっていく可能性はある。

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