このような状況下で「引き続きアメリカを信じる」と言うのは、勇気あることだが、残念ながら、ラックマンのように楽観的にはなれない。仮に彼が言うように、トランプ第二期政権の4年が、米国の民主主義自体を崩壊させるには不十分で、これは、米国にとって必要な「再生」のプロセスだ、と言うのが事実だったとしても、問題は、その4年間に米国の民主主義以外の多くのものが崩壊する可能性があるからだ。
それは、ウクライナ戦争が、侵略によりロシアが得をしたと言える形で停戦になる可能性であり、イランの核兵器国化を含む核拡散・核軍拡の進展であり、他にも多くのことがあり得る。とりわけ、台湾情勢への影響とアジアにおける同盟関係の弱体化の可能性が強く懸念される。
中、米、台のいずれも、近い将来に台湾を巡って武力紛争に至ることは避けたいと思っているだろうが、端的に言えば、トランプが意図せずに紛争発生の可能性を高めかねない。
中国が台湾に何かを仕掛けるケースは、現状では2つある。第一は、台湾の独立宣言で、そうなれば、中国は黙っては居られないだろう。第二は、米国が台湾紛争で台湾を防衛する意思が無いことが明白になる場合で、そうなれば、中国は台湾侵攻の相当の誘惑を感じるだろう。
トランプはもちろん親中派ではないが、同時に、台湾のような「小さな島」を巡って、米国が中国と戦争しなければならないことを決して理解しないように思われる。トランプは、米国の軍隊を世界最強にしたいとは思っているが、それを使いたいと思っていない。
東アジアの安全保障にも影響
同様の理由で、第一期政権でもその一端が垣間見えたように、トランプは日韓を含むアジアの同盟国の防衛に対し極めて消極的だ。第一期政権で、金正恩と直接交渉する一方、在韓米軍引き揚げの瀬戸際まで行ったのは、エスパー元国防長官の回顧録で明らかになっている。
トランプは、日米同盟強化についても理解があったとは思われない。その背景にあるのは、同盟国の防衛努力不足への不満ではなく、出来る国は米国に頼らず自分で防衛すべきだ、と言う基本認識だ。
この感覚は、北大西洋条約機構(NATO)関係でも一貫している。従って、仮にNATOや日本が防衛費を国内総生産(GDP)2%にしても、トランプの米国は、逆に、米国の力を借りずにどんどん自分でやってくれ、ということになるだろう。かくして、中国の台湾侵攻の誘惑が高まる一方で、その抑止のためにますます必要な、日米・米韓同盟は弱体化する。
このように、米国の民主主義を信じることとトランプに対応することは、関連してはいるが、別の問題なのだ。