2024年11月24日(日)

家庭医の日常

2024年1月30日

 家庭医は、すべての介護者についてその負担の大きさを見積もる(評価する)必要がある。その上で、必要に応じて家庭医が行うことができるケアとして、次の4項目が複数の臨床研究を総合した上で推奨されている。

(1)家庭医が介護者に直接支援を提供できる重要な方法として、介護者に休息をとり、自分の健康と病気の予防に気を配り、サポートグループに参加し、必要に応じてレスパイトケア(介護者の休息のために、施設などに介護の代理をしてもらうこと)を求めるよう奨励する

(2)介護者に教育や情報が必要な場合、そのニーズを満たすための適切な支援や資源へ誘導する

(3)患者に特定の慢性疾患(認知症、がん、脳卒中、心不全など)がある場合、その患者の介護者に対して心理教育、ケア技術トレーニング、カウンセリングを提供することは、介護者の負担を軽減し生活の質を向上させる中程度のレベルのエビデンスがある(エビデンスのレベルについては、また別の機会に話したい)

(4)介護環境が変化する移行時や終末期には、患者と介護者に、事前のガイダンス、アドバンス・ケア・プランニング(ACP; advance care planning)を話し合うことの支援、そしてそのための適切な資源に関する情報を提供する

誰もががんと「戦う」わけではない

 知識で知ることと実際に経験することは、時に大きく異なる。私が日本の家庭医の先達として尊敬する京都西陣の「わらじ医者」こと故早川一光先生の最後の著書の題名は『早川一光のこんなはずじゃなかった』(ミネルヴァ書房)である(娘・さくらさんの聞き書きのスタイルをとっている)。

 多くの高齢者の人生を地域でケアしてきた先生にして、自分自身介護が必要な患者になったときに初めてわかったことがあるのだ。それを知った驚きと実感がこのタイトルに表れている。

 同様に、自身が乳がんに罹った米国の家庭医が書いた論考には、患者としての経験を踏まえて、家庭医ががんをもつ患者とのコミュニケーションを改善するための率直なアドバイスが書かれている。家庭医が自分のケアを振り返る際に有益な教訓を抜粋してみよう。

・治療と予後のすべてについて詳細に説明するのではなく、今後すぐ必要な課題に備えるための支援をする

・患者を安心させて「問題を解決しよう」と努めるより、痛みや苦しみが残ることを認めることを学ぶ

・食事、水分補給、運動など、自分でコントロールできることに集中することを勧める

・余分な仕事はやめて、エネルギーを節約するよう促す

・助けを求めることは問題ない「大丈夫じゃなくても大丈夫(It’s okay to not be okay.)」

・人生を楽しむことを勧める。がんがあっても喜びの瞬間を見つけることは非常に貴重

・医師の診察頻度が減少すると患者は喪失感を感じることある

・避けるべき言葉の最上位にあるのは「良いがん(good cancer)」。どんなに治療可能であっても「良いがん」などない

・ポジティブ思考を過度に強調することは有害

・「戦い」や「勝ち負け」に関係する表現は要注意。誰もががんと「戦う」わけではない

・人生の苦難に対する反応と精神疾患とを区別する

・社会経済的負担は生活のあらゆる側面に影響を与える

・がんと診断された後に家族や友人との人間関係を断つ人もいる

・患者の治療目標はあなたが考える目標とは異なる可能性がある


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