ちなみにこの映画は、ノーベル賞作家カズオ・イシグロが脚本を書いて『生きる LIVING』(2022年、オリヴァー・ハーマナス監督)としてリメイクされ、昨年、米アカデミー賞脚本賞にノミネートされたことでも話題をよんだ。このテーマが文化や時空を超えて人の心を強く動かすことを物語っている。
『がんと診断されたあなたに知ってほしいこと』
国立研究開発法人国立がん研究センターが運営する公式サイト『がん情報サービス』は良く出来ているので、私は患者とその家族に参照してみることを薦めている。もちろん、インターネットで情報を得ることに馴染まない人や、知りたいことを直接私へ質問したいという人もいるので、それぞれケースバイケースで対応する。
自分にがんがあることがわかった人は、多くの場合、この『がん情報サービス』サイトから読むこともダウンロードすることもできる冊子『がんと診断されたあなたに知ってほしいこと』(2022年2月1日発行)を読むことから始めると良いだろう。この冊子を紹介する動画も公開されている。一般向け紹介動画の他に医療者向け紹介動画もあるので、身近な医療機関でも利用が進むことが望まれる。
さらに『がん情報サービス』サイトで家庭医として気に入っている点は、『ご家族、まわりの方へ』というページがあることだ。そのページはさらに『家族ががんになったとき』『身近な人ががんになったとき』『がんの子どもの家族の方へ』『学校の先生や同級生へ』に分けて必要なアドバイスが記載されている。
さっそくN.C.さんにもこれらを紹介した。
例えば、家族ががんになったときに、「がんになったご本人とあなたを支える3つのヒント」として、次の3つが推奨されている。
ヒント1:患者の気持ちや希望を理解する・尊重する
ヒント2:情報とうまく付き合う
ヒント3:家族が自分自身も大切にする
「これらのヒントを読んで、N.C.さんはどう思いましたか」
「私なんかが『うまくサポートできるか』どうか、とても心配していました。でも、ともかく私がいることが兄の支えになるってことを知って安心しました」
「そうですね。お兄さんとN.C.さんそれぞれが、がんと知って驚いたその気持ちを伝え合う。そこから始めることができます」
「はい。それから、私自身の心と体をいたわることが兄の支えにもつながることがわかりました」
「それは大事なところです。どうぞうちの診療所のチームを活用して下さい」
介護者へのケア
N.C.さんのように、家族ががんになったときには、がんになった患者だけでなくその人を介護する人たちへのケアも重要であり、特に家庭医は忘れてはならない。
確かに、愛する人の介護をすることにはいくつかの良い点はある。自分が対象となる人の不快感を和らげているという人間的な満足感、その人から必要とされていると感じること、さらに、人生により多くの意味を見つけることなどが臨床研究から報告されている。
しかし一方で、介護することは介護者に身体的、心理的、経済的負担をかけることにもなる。介護者にとって、介護の必要性が持続的(終わりが見えない!)、制御不能(どうしたらよいかわからない!)、予測不能(次どうなるかわからない!)と思われれば思われるほど、ストレスは大きくなる。
さらに、介護者が患者と同居して長時間の介護をしなければならない場合、他に介護者の代わりがいないように思われる場合、介護者への情報や教育が十分でない場合、そして患者に認知症や行動の異常がある場合には、介護の負担が増大する。多くの場合、これらの条件が重なる介護者は患者の家族、特に配偶者である。