2024年11月24日(日)

教養としての中東情勢

2024年3月21日

背景に米欧への屈折した感情

 なぜアラブ世界でパレスチナ紛争が米欧製品のボイコットに火をつけてしまうのか。背景にはイスラエルへの「敗北感」と米欧から受けた「屈辱」にさいなまれるアラブ人の複雑な感情がある。

 アラブ諸国とイスラエルは第2次世界大戦後、4度の中東戦争を戦った。そこにはパレスチナの地をアラブ人に取り戻すという「アラブの大義」が確かに存在した。しかし、その大義はアラブの盟主だったエジプトがイスラエルと単独和平を結び、「圧倒的な軍事力を誇るイスラエルには勝てない」という厳然とした事実の前に事実上消滅した。

 その後、アラブ世界とイスラエルの間は戦争でも平和でもない時代が長らく続き、今やイスラエルと国交を持つアラブの国は5カ国になった。だが、アラブの人々の心の奥底に刻まれたイスラエルに対する「敗北感」や「敵愾心」は檻(おり)のようにたまったままだ。それが同胞であるアラブ人(パレスチナ人)やイスラム教徒が無残に殺りくされると怒りとなって噴出する。

 同時にイスラエル寄りの米欧から受けた「屈辱の歴史」も蘇ってしまう。アラブが西側の列強に蹂躙され、植民地化された恥辱の過去だ。

 身勝手な「サイクス・ピコ協定」などによって国境が勝手に引かれ、つまるところその歴史はユダヤ人を優遇した国連のパレスチナ分割決議とイスラエル建国につながった。その「不平等な扱い」(識者)がアラブ人の頭にこびりついている。

 滅び去った過激組織「イスラム国」(IS)が一時的に台頭できたのは、一部のイスラム教徒が「イスラム共同体」の再興を支持し、そこに欧米から受けた屈辱から脱却する幻想を見たからだ。ガザ戦争をめぐって中東に拡散する不買運動の背景には、イスラエルと米欧に対するアラブ人の深く屈折した感情がある。

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