米国の分断は、教育レベルや宗教観だけでなく、物の文化と文字の文化の対立でもある。物の文化とは、自動車、鉄鋼などのモノづくり文化を言い、文字の文化とは、弁護士、ジャーナリスト、大学教授、ドットコムなどの起業家が生む文化社会である。エリートとされる後者の中でも、高学歴、高収入そして影響力のある限られた人々は、特にMAGA派の強い恨みを買っている。
エリートを叩き潰してくれるトランプ
トランプ信奉者のエリートへの恨みは深い。産業基盤の変化、さらに2007~08年の金融危機により多くが家や職を失ったが、その原因を作った人々は責任も取らなかったと感じている。16年の大統領選挙では「取り残された」と感じる白人の投票動向が勝敗を分けた一因だったが、民主党候補だったクリントン元国務長官は大統領選挙中そうした人々を「嘆かわしい」と呼んだのに対しトランプ氏は彼らの憤懣に同調し票を得た。
その後のコロナ感染拡大では、多くの人が命や職を失い、マスク着用や学校閉鎖などの行動制限が課せられたが、これは米国人が最も嫌う自由の束縛であった。そして、犠牲を強いられたにもかかわらず、「偉そうな」エリート医者や連邦政府の対策は、人々を救えなかった。多くが孤独や不安に苛まれ問題を解決できないエリートをさらに恨む結果となった。
トランプの熱狂的支持者の多くが教育レベルの低い白人クリスチャンである。オバマ大統領が表したように、まさに「神と銃に頼る」人々である。
その彼らにとって、トランプはこうした恨みを理解してくれる「救世主」と映る。そして、トランプは怒りや不安に満ちた人々に「私はあなたたちのために報復をする者だ」と声を上げる。トランプへの訴訟が重なるほど、そうした人々は自分たちと同じようにエリートに不当に裁かれていると益々トランプと一体化する。
インフレが落ち着き、経済が回復し、再雇用や再教育を受ける環境が整い給与が上がっても、不公平感やエリートへの不信は簡単には消えない。こうした人々にとって、エリートや自分たちを見下した人々を叩きのめすにはトランプが大統領になるしかない。