2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年4月1日

 「中国のロレヤル」になる――。壮大な野心を掲げて台頭した化粧品メーカーが逸仙電商(YSG)だ。主力ブランドのパーフェクトダイヤリーは日本でも展開している。16年の創業からわずか4年で米ニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額1兆円を突破した。

 OEM(相手先ブランドによる受託製造)をフル活用し、低価格ながらお値段以上の品質を実現したこと、顧客をグループチャットに登録させることでテレビやウェブなどに頼らなくても宣伝できるプライベートトラフィック(広告費を支払うパブリックトラフィックに対比して、無料で情報を伝達できる伝達チャネルを指す)を活用したこと、この2つの革新的手法を武器にのしあがったとされる。

 この宣伝文句を見るとなんだかイノベーティブな企業に思えるが、実際には別の理由で消費者から支持されていた。「パーフェクトダイヤリーのあの口紅はイブサンローランの口紅とほぼ同じ色味。同じOEM工場で作ってるから品質も変わらないはず」といった口コミが美容インフルエンサーやソーシャルメディアを通じて拡散した。ハイブランドの「平替」として人気を得たわけだ。

 つまり、ブランドとしてロイヤルカスタマーを獲得したわけではない。となると、安売りや宣伝をやめた瞬間にすぐに客は離れてしまう。

 美容インフルエンサーに支払う広告をしぼった瞬間に売上は激減。23年12月期決算の売上は4億8100万ドル(約730億円)、ピークの21年12月期と比べてほぼ半減している。時価総額も2億2700万ドル(約340億円)と最盛期の30分の1にまで縮小した。

しんどい“内巻”

 すさまじい勢いで膨張しては破裂する。この繰り返しで進む中国新興企業の栄枯盛衰。このドラマチックな企業興亡史の中で大損する人もいれば、失業する人もいる。企業にとってもしんどい世界だ。

 中国で近年流行している、「内巻」(インボリューション)という言葉がある。内側にむかって収束していくらせんのように、どんどん小さくなっていく縮小再生産を指す。もともとは人類学の用語で、畑が増えないのに農作業量を増やすことでどうにか収穫量をあげる、どんどんしんどくなっていく農業の過程をあらわす用語として使われた。

 現代の内巻はというと、「昔は四大卒ならエリートだったのに、今では海外一流大学の院卒じゃないとエリート扱いされない。人生の成功に必要な勉強量が右肩上がりでしんどい」といった個人レベルの話から、「中国市場の泥沼の価格競争がしんどい。競争に勝って価格競争をやめられればいいが、目の前のライバルが倒れたかと思えばすぐに別の新興企業がライバルとして登場する」といった企業レベルの話でも使われる。

 中国人自身がこの過当競争社会につかれきっているのだが、ただ、すべてがネガティブというわけではない。

 消費者にとっては次から次へと現れる、赤字上等の高コスパ企業を乗り換えていくだけでお得になるという点でプラスだ。「薅羊毛」(企業の出血キャンペーンを利用して利益を得る)というネットスラングまであるほどに定着している。


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