米国の需要を後押しする115万円の補助金
バイデン政権が22年に導入したインフレ抑制法の中に、EV補助金が織り込まれている。その額は最大7500ドル(約115万円)。補助金支出の条件は以下のように細かく定められている。
・北米製造の新車BEV/PHEV/FCEV(燃料電池車)が対象。車体の価格はSUVで8万ドル(1200万円)以下、セダン、ワゴンなどで5万5000ドル(830万円)以下。
・最初の3750ドルの対象になる条件は、バッテリーが北米で製造されていること。7500ドルの対象となるためには一定比率の重要鉱物が北米あるいは自由貿易締結国から供給されるか、北米でリサイクルされていること。
・懸念のある海外の組織(FEOC)からの部品を含むEVは対象外。FEOCは特定の外国政府が保有あるいは支配する組織を指す。特定の外国政府は中国、ロシア、イラン、北朝鮮を含む。
地方政府からの補助を合わせると、最大1万5000ドルになる地域もあり、EV販売には大きな支援策になっている。
連邦政府の補助7500ドルを受け取るためには、経費控除後の所得が、夫婦の合算納税では30万ドル(約4500万円)、世帯主の場合には22万5000ドル(約3400万円)を超えてはいけない。
22年の米国の世帯所得の中央値は7万4580ドル(約1120万円)。所得が20万ドルを超える世帯は11.9%しかないので、ほぼ全世帯が補助金の対象になるが、補助金は税額控除の形になるので、年間7500ドル以上の税を支払わなければ全額は受け取れない。納税額で頭打ちになり繰り越しは認められない。
所得が低い層が補助金を受け取れないのは不公平だが、もともと米国でEVを購入する層は高額所得者だ。販売中のEVの61%は高級車(ラグジュアリー)に分類されている。
今年1月に米国で販売されているLDV(セダン、SUV、ピックアップトラックなど)459車種のうちEVは70車種ある。昨年12月のBEVの平均価格は5万798ドル(約760万円)。2022年の第2四半期のピーク時から24%下落している。
テスラの平均価格がこの間に29%下落したことも大きいが、補助金対象でないブランドが価格を引き下げていることも影響しているのだろう。
中国政府は補助金が不公平として世界貿易機関(WTO)に提訴したが、今年1月現在で補助金対象となっているブランドは全て米国車だ。
米国の成長を鈍化させている充電ポイント数
不調が伝えられることもある米国のEV販売だが、販売数量は依然伸びているものの成長のスピードは落ちている(図-4)。
そんな中で性急なEV化を見直す動きも出ている。メルセデス・ベンツは、「市場次第との条件付きながら30年に販売をすべてEVにする」と21年に発表していたが、「30年までにEVの比率が50%に届くことを期待する」と修正した。