期待に冷水を浴びせた
中国の軍需産業はといえば、ここ数年活況を呈している。中国には10の軍需コングロマリットが存在する。「10大軍工集団」(航天科技集団、航天科工集団、航空工業集団、船舶重工集団、船舶工業集団、兵器工業集団、兵器装備集団、核工業集団、核工業建設集団、電子科技集団の10のグループ、全て頭に「中国」がつく)と呼ばれ、機構改革が進められ、統廃合が行われてきたが、現在でも依然として各グループでは中国兵器工業集団のように30万人もの従業員を抱えるところもあり、その規模は資金的にも、産業規模でも、影響力でも巨大である。
さきに新たな空母の建設の際に株式によって資金調達を目指すという記事を紹介したが(9月17日)、中国ではこの10年ほど「軍民融合」と称して民間の技術を軍事利用したり、軍事技術を民間に転用するといった相互性を高める方針のもとに、より広く社会、市場からの資金や資源の調達が目指されるようになっている。こうした方針はさきの3中全会でも再確認され、産業の振興が図られる一方で、軍需産業の分野でも政府の関与を減らして市場ファクターを増やすことが試みられている。
今回の防空識別圏の設定は皮肉なことに中国の軍需産業にとって「恵みの雨」になる可能性を秘め、証券業界も期待を寄せている。しかし、その一方で経済発展や国際経済の進展が相互依存を深め、日中間で経済交流が増大すれば緊張が緩和するかもしれないという日本側の淡い期待を御破算にしている。
こうした傾向は更に政治面での関係改善が困難でもせめて経済面でも改善させたいという、「政冷経冷」から「政冷経熱」への転換可能性に対する期待に冷水を浴びせるものでもある。財界代表団が訪中して両国間の緊張緩和に出口が見えるかに思えた矢先の防空識別圏の設定の背後に中国国内で蠢く(うごめく)軍産複合体の影を垣間見た思いである。
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