賛否両論がぶつかり合った結果、同首脳会議の共同声明は「いつ」「どのように」は棚上げした上で、ウクライナとジョージアは「将来加盟国となるであろう」と記す玉虫色の決着となった。NATO加盟を目指したジョージアは不満であったが、これを阻止しようとしたロシアも不満であった。ロシア・ジョージア戦争が勃発したのはその4カ月後のことであった。
続く欧州とロシアとの複雑な関係
ジョージアはロシア・ジョージア戦争で敗北し、ロシアは「凍結された紛争」の南オセチアとアブハジアの独立を承認した。ジョージアでは、南オセチアに攻め込むことでロシアに介入の機会を与えたサーカシュヴィリ大統領が率いた「統一国民運動」は12年に政権を失い、政党「ジョージアの夢」が政権の座に就いた。「ジョージアの夢」は、ロシアと関係の深いオルガルヒのビジナ・イヴァニシヴィリが創設した政党である。
ジョージアでは、一方では欧米への接近、他方ではロシアとの宥和という二つの力学が複雑にぶつかり合っている。08年の戦争以来、ロシアとの外交関係は断絶しており、国民の多くが親欧米路線を支持している。「ジョージアの夢」の下、ジョージアはEUとNATOへの加盟を目指す一方で、ウクライナ侵攻についての制裁などの対応においては、ロシアを刺激しすぎないように注意を払ってきている。
そうした中での今回の「外国の代理人」法の可決である。ジョージアでは、同法の背後に「ジョージアの夢」の創設者であるイヴァニシヴィリの影を見ての懸念が持たれている。すなわち、同法は、ロシアへの宥和でありEU加盟を挫折させようとする試みであるとの懸念であり、民主主義の圧殺に繋がるとの懸念である。
ジョージアでは、今年10月に総選挙を控えている。「ジョージアの夢」においては、前記の対ロシア関係、対EU関係からの考慮に加え、選挙戦を有利にしたいとの考慮も働いているのであろう。
NGO、メディアなどの影響力を考えると、外国からの資金は、政権与党の行動を監視する方向に使われることが多いと考えられる。ジョージアは、12年に総選挙によって政権交代が行われた国であるが、「外国の代理人」法の可決は、同国で民主主義が実質的に機能し続けるのかどうかに大きく関わるものとして注視される。