この点でもサウジアラビアは重要な役割を果たすことが期待される。他方、サウジ側は、19年に(フーシー派から攻撃された時)トランプ前大統領が対応してくれなかったことから、米国との公式の安全保障条約の締結を求めている。
しかし、サウジがイスラエルとの関係を正常化することを米国がサウジを防衛するコミットメントの条件にすれば、米サウジ関係に大きな影響を及ぼすであろう。
米国・サウジ安全保障条約締結にイスラエルとの関係正常化を絡ませると、ただでさえ複雑な米国・サウジ関係をますます難しくしてしまうのでとてもその価値があるとは思えない。例えば、サウジがイランとの関係で微妙な対応をするとイスラエルを怒らせるかも知れない。
サウジはエジプト同様に米国の武器援助に依存しているが、仮にイスラエルが、サウジが独自の外交を追求することを望まないと、それは米国・サウジ関係の潜在的なトラブルの種となろう。仮にバイデン政権がサウジとの安全保障条約締結を望むのならば、イスラエルとの国交正常化を絡めるべきではない。
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変化する米国のアラブ産油国への見方
米国のペルシャ湾岸のアラブ産油国(GCC)に対するここまでの見方の大枠は次のように分析されよう。シェール革命で世界最大の産油国となった米国にとってのペルシャ湾岸のアラブ産油国(GCC)の重要性は大きく低下した。その一方で中国の台頭により、米国はアジア方面に米軍を再展開する必要性に迫られている。
その結果、アフガニスタンからの撤退が顕著だが、米国は、バイデン政権下で急速に中東の米軍を削減して来た。しかし、イランの脅威に対して米軍の安全保障の傘に依存していたGCCは、動揺し、軍拡、イランとの宥和(23年のサウジ・イランの外交関係回復)、ロシア(OPEC+での協力)、中国(サウジ・イランの仲介)との関係強化に走り出した。なお、この論説によれば米国はイランの脅威を減じるためにイラン核合意の復活を目指したが、イラン側にその気が無いと判断した模様だ。
米国は、GCCの動揺を抑えるためにGCCとイスラエルの関係正常化を通じてイスラエルに米軍の代わりの抑止力を期待し、20年のアブラハム合意のようにアラブ諸国とイスラエルとの関係正常化を進めてきた。特に昨年夏からバイデン政権は、イスラエルとアラブの盟主サウジとの関係正常化を強く進めて来たが、パレスチナ問題がこれまで以上に脇に追いやられることを恐れたハマスが、昨年10月、イスラエルを大規模攻撃し、サウジ・イスラエル関係の正常化は頓挫してしまった。