たしかに賃借人は、賃貸人に部屋を返還する際に、原状回復(修補や損害賠償など)をしなければなりません。しかし、ここでいう原状回復とは、元の状態に戻すことを意味しません。もちろん、賃借人が不注意で壊したなどの場合には、原状回復の対象になります。
しかし、通常の使用によって起こる自然損耗分までも、原状回復の対象とはしません。たとえば、寝たばこで畳を焦がしてしまった場合には、損害賠償の対象となり、敷金から差し引かれても仕方ありませんが、普通に住んでいた中で畳がすり減ったとしても、畳の張り替えなどは賃貸人が負担をすべきものなのです。ただ、個別具体的なケースになると、判断が難しいものもあります。
契約の更新にもおカネが必要
さて、再び広告例に戻ってみましょう。
今度は、「更新料/新賃料の1ヶ月分」という点に注目してください。この更新料とは、どのようなものでしょうか? 更新料とは、賃貸借契約の期間が満了するにあたって、契約の更新を希望する場合に、賃借人が賃貸人に対して支払う金銭のことをいいます。
では、そもそも、更新料をとることは、法的に認められるのでしょうか?借主からすれば、「更新料って、なぜ払わなければならないのか?一方的に借主に不利じゃないか?」と不満に思うかもしれません。
消費者契約法10条*4によると、消費者の利益を一方的に害する契約条項は無効となることを規定しています。では、更新料の支払条項は、同条に反して無効にならないのでしょうか。
最高裁平成23年7月15日判決は、まず、更新料の意義について、「賃料とともに賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」としています。簡単に言うと、それなりに意味があり、経済的合理性がないわけではないものと位置づけています。
そして、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、無効なものとはならないと示しています。そして具体的に、更新期間1年に対する賃料2カ月分相当の更新料の合意についても、有効としています。
*4 【消費者契約法10条】消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。