すべては政権を「懲らしめる」ため
行政同様、住民も良くはない。公共サービスの金を払わず、電柱や地中のケーブルから集団で電力を盗み、電線そのものを盗む者もいる。電気料金を払わないから、省エネもしない。94年の民主化後、ANC政権から家を与えられたのと同じように、公共サービスはタダと考えている住民が少なからずいる。
そんな人々が政権による体たらくを刷新させるため、「懲らしめ」にかかったのが、今回の選挙結果を多少なりとも反映しているのではないか。
ズールーを中心に前大統領のズマを支持した人も多いが、人々がANCではなく野党に投じたのは、党を支持したからではなく、単にANCを懲らしめるためという動機が大きい。彼らの言葉を信じればの話だが。
ズマの野党も元はANCからきたものだが、それは広義にANCが支持されているということではない。反ANCの適当な受け皿がないという話だ。
受け皿がないから投票はしない。そう語る人が若い人には多かった。南アに限った話ではないが、政治嫌悪が、特に若い世代の間で広がっている。
94年に86.9%だった投票率は今回、過去最低の58.6%まで落ちた。「今後の南アの運命を決める選挙」と政治家やテレビ、ラジオがあれほど叫んだのに、前回より7%以上も低かった。
ここ南半球でも、日ごろから政党政治を語らない、「支持政党なし」の人々が確実に増えている。もちろん「ANCのお陰でいまがある」「子どものころの家は狭い平屋に20人が暮らしていた」「子どもたちはみな床に寝ていた」と語り、いまもANC万歳の人も大勢いるのだが。