今回の記事では、法的な視点から会社内不正の予防について解説しています。社内で不正が行われていても、会社内部のなれ合い(仲間意識・身内意識)によって、適切な責任追及が期待できない場合も少なくありません。このような“暴走”を阻止するために、どのような仕組みが整えられているのでしょうか。
*本記事は中央大学法学部教授の遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。
「社長」という地位の法的位置づけ
よく、「会社の社長」という言葉を耳にしますね。では、社長って、どのような人のことなのでしょうか。会社の長ですから、会社の一番偉い人? ……ある意味、そうかもしれません。しかし、法的には、社長という地位はありません。あるのは、「(代表)取締役」という地位です。では、取締役とはどのような人を指すのでしょうか。
まず、株式会社の最高意思決定機関のことを株主総会といいます。
株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
そして、株主は、株主総会に参加することができ、決議をする際に投票する権利(議決権)を持っています*1。比喩的に表現するのであれば、株主総会が法人の「頭脳」に当たるでしょうか。これに対して、取締役は、法人の「手足」に当たります。すなわち、取締役は、法人の手足となって、業務を執行し、法人を代表します。
取締役はどのように選任されるのかというと、株主総会の決議で選任されます。つまり、取締役は、株主によって経営を託された存在なのです。会社と取締役の間には、会社の業務運営に関して、委任契約が結ばれます。ですから取締役は、株主の利益になるように、善良な管理者としての注意義務をもって行動するとともに、忠実に行動しなければならないのです(会社法355条、330条、民法644条)*2。
*1 【会社法308条】①株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。(後略)
*2 【会社法355条】取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
【会社法330条】株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
【民法644条】受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。