2024年7月16日(火)

はじめまして、法学

2024年6月14日

 なお、通常、取締役全員で構成する会議体である取締役会が設置されます。その場合には、取締役の中からとくに、代表取締役が選任されます。代表取締役が設置されると、代表権が代表取締役に集中することになります。代表権の範囲は、株式会社の業務に関する一切の行為に及びます。

[会社法349条4項]
代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

 条文にも「一切の」とありますが、代表取締役の権限が絶対的に無制限かというと、そうでもありません。たとえば、多額の借財をしたり、重要な財産の処分をしたりする場合には、会社法上、代表取締役単独では行えず、取締役会のチェックが必要です。定款で代表取締役の権限を制限することも可能です。しかしいずれにしても、代表取締役に大きな権限が与えられていることに変わりはありません。

取締役が会社に損害を与えるケース

 取締役が、権限を適切に行使している間はよいのですが(実は、何が「適切」かを判断すること自体が難しいのですが、それは置いておきましょう)、時として暴走する取締役もいます。

 たとえば、以下のような事例です。この例、簡単に言うと、BがA社のお金を勝手に私的に使い込んでしまっています。

【事例】
大企業A社の社長Bは、以前からギャンブル好き。ありとあらゆるギャンブルに手を染めて、やがて外国のカジノでも豪遊するようになりました。ギャンブルが原因で借金が増えてしまったBは、A社のお金を10億円ほど使い込みました。その際には、A社の取締役会決議や契約書の作成などが行われませんでした。Bによる資金使途も不明で、借入金のほとんどは未返済となりました。

 このような行為は、会社法で禁止されている特別背任罪に該当します(会社法960条1項)。すなわち、取締役など、株式会社に一定の権限を有する者が「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的」(これを「図利・加害目的」といいます)で、任務に背く行為をし、株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処する(またはこれを併科する)ものとなっています。事務を任せた人の信頼を裏切る点に悪質性があります。

 「あれ? 犯罪と刑罰って、刑法に規定があるのではないの?」と思った読者もいるかもしれません。たしかに、犯罪の基本類型は刑法に規定がありますが、その他の法律にも犯罪と刑罰に関する規定は存在します。そもそも、刑法上に、背任罪(刑法247条)*3という犯罪類型があります。しかし、株式会社の取締役などが背任を行った場合に、とくに重く罰するために、会社法に特別な規定が設けられているのです。

 なお、取締役が犯罪行為などをした結果として会社に損害が生じた場合、前述のような刑事的責任のほかに、株式会社に対して損害賠償責任を負います(会社法423条)*4。これは、民事上の責任です。その責任追及は、タテマエ上は、損害を受けた会社自身が行うことになっています。

 しかし、会社内部のなれ合い(仲間意識・身内意識)によって、適切な責任追及が期待できない場合も考えられます。「会社が社長を訴える? 無理でしょ、そんなの」ということも実際には多いのです。そのような場合、一定の要件のもとで、株主が、会社の代わりに原告となって、取締役の責任を追及するための訴えを提起することができる仕組みとなっています。持株比率が低くても、訴えを提起することは可能です。これが、株主代表訴訟です。

*3 【刑法247条】他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

*4 【会社法423条】①取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(後略)

 

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