すると、消費者の側にも「今より価格が高くなる(おカネの価値が下がる)前に買っておこう」という心理が働きます。そのため、特に最近の政策では、緩やかなインフレは景気に刺激を与えることができると考えられています。しかし、インフレが加速しすぎるとおカネの価値が暴落し、物価水準を維持できないというハイパー・インフレーションが生じる危険性もはらんでいます。
一方で、消極的な消費活動が続けば景気は冷え込み、物価は下落します。このように、物価が継続的に下落することを「デフレ」(デフレーション:Deflation)といいます。
先ほどのインフレとは反対に、デフレが進行すると、実質的なおカネの価値は上がります。仮に100万円の貯蓄があったとしても、物価が下落すれば100万円で買えるモノの選択肢は増えていきます。つまり、一見すると貯蓄額は変わらなくても、実質的な貯蓄は増加するというわけです。
そのため、消費者の側にも「今より価格が安くなる(おカネの価値が上がる)まで待っておこう」という心理が働きます。すると人々は消費を控え、モノがどんどん売れなくなります。そして企業は生産活動を縮小させ、従業員の賃金が下がり、さらに消費が減退していきます。このように、社会におカネが回らず景気が悪化するという悪循環を「デフレスパイラル」(Deflationary Spiral)と呼びます。
物価上昇をもたらす2つの要因
先述したように、経済学では緩やかなインフレが好まれる傾向があります。では、どのようにして物価は上昇するのでしょうか? インフレが発生する要因は、大きく分けて「需要」と「供給」の2つの側面から説明することができます。
まずは「需要」側の要因から生じるインフレについてです。一般的に、人々の購買意欲が高まり、需要が供給を上回れば物価は上昇します。たとえば、減税によって可処分所得が増えると、「何かモノを買いたい」と考える人の割合が高くなります。すると、個人消費が促進されて価格が吊り上がるのです。これは、需要の高まりという外的要因によって価格が引き上げられるという現象で、「ディマンド・プル・インフレ」(Demand-Pull Inflation)と呼ばれています。
次に、「供給」側の要因から生じるインフレについてです。原材料の価格や従業員への賃金など、生産にかかるコストが上昇した分を、製品やサービスの価格に上乗せ(転嫁)することで価格が吊り上がります。これは、供給側の生産過程における内的要因によって価格が押し上げられるという現象で、「コスト・プッシュ・インフレ」(Cost-Push Inflation)と呼ばれています。