2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2013年12月6日

――日本ではマーケットデザインのアルゴリズムを使っているわけではないんですか?

坂井氏:使っていません。おそらく、きちんとしたアルゴリズムで学生と学校を上手く組み合わせるという発想自体が、持たれていないと思います。私自身は学校選択制の是非自体にはニュートラルです。しかしやるのであれば、きちんとやるべきですね。でないと学校選択制のメリットが十分に出てこないし、貧弱なマッチの結果に行政への不満が溜まってしまう。大阪市が複数校への出願を許容した学校選択制を導入する様子ですが、きちんとしたアルゴリズムを使う必要があります。

――現在、坂井さんの研究の中心はなんでしょうか?

坂井氏:少し前までは『社会的選択理論への招待』という、投票と民主主義に関する本を書いていました。最近それが日本評論社から出たばかりです。今はその反動で、市場設計を考えるのが楽しいですね。投票や民主主義は本質的に面倒で重苦しいもので、それと比べると、あくまで私の感覚ではですが、市場はあっけらかんとしています。両者のバランスを取って研究するのが自分の精神衛生には良いです。いま特に関心を持っているのが国債オークションです。どの方式だと高値が付きやすいか考えています。

――国債ってオークションで売っているんですか?

坂井氏:あまり知られていませんが、日本を含む多くの国では、国債を金融機関に対しオークションで売っています。ただ、現在、日本政府が採用しているオークション方式は差別価格オークションといって、これがイマイチだという研究の蓄積があります。どうイマイチかというと、国債が安値(=高金利)になりやすいんです。財政負担的によろしくない。オークションはどの方式を使うかが、売れ行き、この場合は特に金利に影響を与えます。今のところ日本国債は堅調に売れているので、これが話題に上ることは無いようですが、今後に備えて方式変更を検討したほうがよいと考えています。

――
出版後の反響はいかがですか?

坂井氏:多方面から色んな反応を頂いています。身近なのは周りの学生ですね。「マーケットデザインが学びやすくなった」という声をよく聞きます。たまに「数式が無くて分かりにくい」という不満も聞くけど、新書に数式入れたら絶対売れなくなるから。あとは、企業や官庁からオークションについて話してほしいという依頼を受けました。

 一番大切なのは、これからの長期的な影響ですよね。特に新書は短期決戦の度合いが高い商品だし、「消費されてポイ」になりやすいから。知識を一般に普及するためには市場をサヴァイヴする必要があるというのは、良いのか悪いのかよく分かりません。それでも新書というフォーマットは、社会における知識の伝達形態として、大変優れているとは思います。筆者としてはこの本が、日本でのマーケットデザインの普及にロングランで貢献してくれれば嬉しいですね。

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