国防省防衛産業ボードのメンバーは、「リスクを知る価値は理解するが、供給網に長期的で持続可能な変化をもたらすには、究極的には真の需要を知る必要がある」と言う。供給元を知ることと、富裕国での生産を経済的に実現することは別だ。
フレンド・ショアリングはその助けになり得る。例えば、電気自動車やクリーン技術分野で豪州の希少金属を使い、日本の生産能力を活用し、米国の消費市場の力により世界市場で競争可能な物品を生産する。物品が世界のどこでどのように生産されているかが分かれば、世界的で強靭な供給網形成に向けた協力方策を議論できる。
これは米国では超党派が支持する目標だ。先日リスク確認を法律化した「強靭な供給網推進法」が下院全員一致で可決されている。
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米国のすごさと、貿易の複雑性
確かに、サプライチェーンについて意味のある具体的議論をしようとすれば、そのベースとなる具体的な事実関係を共有する必要がある。それは当然既に存在しているのだろうと漠然としたイメージがあるかもしれないが、それほど単純なものでもない。
それにしても、やはり米国は凄い。問題点を把握すれば、それを放っておかず、可能な限り具体的対応を考え、実現する。この論説で触れられている、商務省のサプライチェーンセンターとサプライチェーン分析ツールは、そうした米国の凄さの表れの一つに他ならない。
しかし、そのような最新鋭のツールにも限界があるのは当然だろう。貿易というのは複雑な生き物で、その全てを正確に把握するのは元々難しい。
世界中の多くの人間が、常に1円でも得をしようと、最良の供給元から最短のルートを通って、最安値の運輸方法を用いて、世界中で各種物品を移動させている。これは「最安値」という共通ルール基づく「神の手」に導かれた人間社会の営みで、これが世界全体の富を最大化する最も適当な方法(=自由貿易)だというのが、われわれが学んできた経済学だ。
もちろん、経済的威嚇を影響力行使の手段とする輩が登場してきた結果、この自由貿易の基礎となる「価格」に影響を与える新たなコスト(=リスク)を考える必要が出てきた。だからこそサプライチェーン強靭化が必要となるのだ。
そして、必要なデータが十分存在していないという問題もある。「部品構成表」(それぞれの物品がどのような部品により構成されているかを示すもの)は、ビジネスでは機密扱いであるし、それ無しにはどこに生産の隘路があるかを見出すことは出来ないだろう。