送電線建設協力会会長の国本芳則さんは「電気がなければ満足に生活できないはずですが、それを支えるラインマンはエッセンシャルワーカーとして認識されていないことが分かり、とても悲しかったですね」と振り返る。
深刻なラインマン不足
日本の電力供給を守れるか
高度経済成長期に建設した送電線の張り替えや建て替え工事など、経年設備の更新工事は増加の一途をたどる。一方、ラインマンの労働力不足は深刻だ。全国の高所作業員の数は22年に約5700人で10年前から約5%減、架空線に乗り出す架線電工に限ると約3000人程度である。若手が定着しにくく、平均年齢は年々上がっている。
小誌記者が訪問した日、工事現場で施工管理をしていたタワーライン・ソリューション(東京都豊島区)の藤井凌さんは「作業員の入れ替わりが激しく、新しく入ってくる人数よりも離職する人数が多く、アンバランスだと感じます」と話す。
送電線建設協力会によると、電力自由化や電気代高騰への対応という時代背景の下、1996年頃から各電力会社は設備投資計画を一時停止し、送電線設備の延命を図った。工事量は8年間で約6分の1まで下がったという。
前出の国本さんは「電力業界でコストを削減しようという動きが生まれ、現場で働くラインマンにしわ寄せがいった。高度経済成長期には『大工の給与の3倍』と言われ、高収入でならしてきたラインマンの賃金は、2000年代になると大幅に低下し、業界から離れてしまった人もいます」と回顧する。続けて国本さんは言う。
「修繕や取り換えが必要な鉄塔や送電線はこれからも増えていきます。この状態が長く続けば、必要なメンテナンスが滞り、安定した電力の供給ができなくなる可能性もあります。平成の時代のツケを払わされることになる前に対処していかなければなりません」
スカイテックは先手を打つ。24年度入社のラインマンの初任給を2万円引き上げると、応募者数は例年より増え、15人が入社。4月からは土日を完全休日とし、働き方の見直しにも着手した。社員寮では3食を提供するなど福利厚生も充実している。賃金や待遇を見直せば、エッセンシャルワーカーの担い手を確保できることを体現する好例だ。社長の国本雅樹さんは言う。
「給与や待遇をきっかけに業界に入った人が、いずれは日本の電力供給を支えることにやりがいを感じてほしい。社会に不可欠な仕事であるラインマンの待遇はしかるべき水準であるべきです」