2024年10月7日(月)

21世紀の安全保障論

2024年7月9日

 被害少女の関係者から通報を受けた同県警は、防犯カメラ映像などを解析し、米軍の協力を得て被疑者を特定、米兵は任意の取り調べに応じ、同県警は3月11日に書類送検した。その後、同地検が3月27日に在宅起訴、日米地位協定に基づき、すでに米兵の身柄は日本側に引き渡されている。近く那覇地裁で初公判も予定されており、少なくとも公判が開かれれば、事件が明るみとなるケースだった。

 米兵の身柄引き渡しを巡って、地位協定上のトラブルがあったわけでもなく、駐日米大使を呼んで抗議までしているにもかかわらず、県に対して一切の情報を伝えなかったのはなぜか。それは事件が、沖縄県民の間に反米・反基地運動が沸き起こった1995年の少女暴行事件を思い起こさせるような悪質さであったことに加え、起訴した日、つまり3月27日の前後の政治状況に起因している気がしてならない。

首相訪米前の混乱は避けたかった?

 真っ先に思いつくのは、陸上自衛隊の訓練場新設計画だ。うるま市のゴルフ場跡地に訓練場を新設する計画だったが、周辺自治体や関係者に対する防衛省の事前説明や合意形成が不十分で、昨年末に計画が浮上すると住民らは猛反発。3月には自民党を含む沖縄県議会が全会一致で白紙撤回を求める意見書を可決し、木原稔防衛相も4月に入って計画を断念せざるを得なくなってしまった。

 これは大きなトラブルではあったが、それ以上に情報を秘匿したかった理由として考えられるのは、4月8日から岸田文雄首相が米国を訪問し、首脳会談や米議会での演説が予定されていたことではないだろうか。しかも9年ぶりの国賓待遇であり、その直前に米兵の少女暴行事件が明るみになれば、沖縄県を中心に反米や反基地運動が噴き出し、岸田首相は首脳会談で、この問題を取り上げざるを得なくなる。そうした事態だけは避けたかったのではないだろうか。

 日米両政府の外務・防衛担当者による日米合同委員会は1997年、在日米軍の事件や事故の通報手続きや基準について合意しており、外務省が防衛省に連絡し、事案に応じて防衛省から都道府県に連絡する仕組みがある。だが今回、外務省は起訴の事実を防衛省には知らせていなかった。情報が漏れるのを恐れたというのが真相だろう。

沖縄との関係修復は国の安全として必要不可欠

 日本の安全にとって、沖縄との信頼関係が大切だという危機意識が欠如していたと言わざるを得ない。一刻も早く政府は沖縄県そして県民に謝罪し、国と沖縄との関係修復に全力をあげなければならない。その最大の理由は悪化する安全保障環境に備えるためだ。

 こうしている間も、沖縄・尖閣諸島を巡る中国とのせめぎ合いは続いており、中国海警船が同諸島の接続水域内を航行するのは、昨年12月22日から197日(7月5日現在)連続と過去最長を更新し続けている。

 しかも中国は6月15日、国際法を無視し、「自国の管轄海域」と主張する東シナ海と台湾海峡、そして南シナ海に至る海域一帯で、侵入した外国船やその乗組員を拘束できるとする新法を一方的に施行している。その直後には、南シナ海で海警船がフィリピン軍の資材運搬船と衝突、運搬船の乗組員を一時拘束し、負傷させたほか、台湾海峡でも、台湾の離島・金門島付近で海警船が台湾漁船を拿捕するなど高圧的な態度を強めている。

 尖閣諸島の周辺海域でも、操業する日本漁船を追かけるように領海侵入する海警船は後を絶たず、最近は機関砲など武器を搭載した大型船が頻出している。海警船が警備する海上保安庁の巡視船と衝突する事態を真剣に考えねばならない。そのカギを握るのが、沖縄県との関係修復と言っても過言ではない。


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