本気度が感じられない岸田政権
だが残念ながら、南西地域の抑止力強化が喫緊の課題であるにもかかわらず、政府が『国家安全保障戦略』に基づき、防衛力強化を目的に整備するとして指定した全国16カ所の空港や港湾の中に、沖縄県内の施設は国が管理する那覇空港と石垣港の2カ所しか含まれなかった。当初計画では、中国の軍事的脅威を念頭に同県内の整備対象は12施設であったが、沖縄本島の中城湾港や先島諸島の与那国空港、宮古空港、下地島空港などは、玉城デニー知事の強い反対で、管理する県が難色を示し、指定できなかった。
これではいざという時の住民避難に支障を来しかねない。対象となった自治体からは「攻撃目標にされる」「説明が十分でない」といった意見も多く、政府は「地元の理解が得られなかった」と言い訳する。だがそれは、住民がイメージできる想定や計画をきちんと示して説明していないだけだ。
例えば空港であれば、大型輸送機が離着陸できる滑走路の長さや厚みを調べ、港湾なら大型輸送船の入港が可能な水深や接岸できる岸壁を整備しておかなければ、いざという時に役に立たないことは、容易にわかることだ。それも事前に調査、整備し、前もって訓練で使っておかなければ意味はない。
それらを粘り強く住民に説明し、理解を得ることこそが政治の役割ではないのか。現状、岸田政権には沖縄との関係を本気で改善しようという意思が感じられないと言ったら言い過ぎだろうか。
戦後80年をどう迎えるのか
ただし、政府にとって明るい兆しもある。それは6月の沖縄県議選の結果だ。知事派の20議席に対し、反知事派は28議席を獲得、16年ぶりに玉城知事に批判的な反知事派が多数を占める結果となった。
基地問題を巡る対立で政府との関係が冷え込み、沖縄振興予算は減らされ、県民所得が伸び悩むなど経済面で玉城県政への県民の不満が現れた格好だという。もちろん、この結果だけで「保守回帰」は言い過ぎかもしれないが、ウクライナ戦争で現実味を帯び始めた中国の台湾侵攻など、多くの県民も中国の脅威を実感しはじめている証だと受け止めたい。
来年は戦後80年の節目であり、2度と沖縄、そして沖縄県民を戦禍に巻き込ませることがあってはならない。その誓いを新たにするとともに、政府は基地負担のさらなる削減を進めると同時に、米国に対し、米兵犯罪の再発防止を強く求め続けなければならない。それが今回の政府の失態を償う唯一の手立てにほかならない。