2024年7月23日(火)

君たちはどの主義で生きるか

2024年7月23日

 さらに20世紀になると、アインシュタインが発表した相対性理論によって、「時間の流れ」ですら人によって異なる、相対的なものであったということが明らかになります。

 一般相対性理論では、「重力が強いと時間が遅れる」ということがわかっています。地球の重力は地球の中心に近いほど強く、遠いほど弱いため、海辺に住んでいる人と山の上に住んでいる人では、重力の強い海辺に住んでいる人の方がわずかに時間の進みが遅れることになります。ということは、山に住んでいる人の方が歳を取るのが早いのです。もっとも、同じ地球上であれば重力の差などたかが知れているので、誤差の範囲ではありますが。参考までに、高度2万㎞の上空を飛ぶ人工衛星で、地上より早く進む時間は1日あたり100万分の38秒となります。

 このように、古代には絶対不変だと思われていた「時間」すら、実は相対的な存在だったということが今ではわかっています。それならば「正義」や「道徳」や「善悪」のような曖昧なものにはなおさら絶対的な正解などあるわけがなく、結局のところあらゆるものは「人それぞれ」ということになるのです。他人の価値観や思想について、いちいち「これが正しい」「あれは間違っている」とジャッジするよりも、「みんなちがって、みんないい」と、お互いを尊重しながら過ごした方が気持ち良く日々を送れそうですよね。

相対主義の物語は面白くない?

 もし新選組の沖田や土方、攘夷派の望月や宮部が相対主義者でいてくれたら、池田屋であんなに人が死なずに済んだのになと思います。

 新選組と攘夷派志士たちが、互いの思想を認め合ってくれていたら。斬り合うのではなく、「攘夷派さんも一理ありますね」「いえいえ新選組さんこそごもっともです」「では先斗町で一献いかがですか?」「それはよいですなあ」と、互いにリスペクトを持って交流してくれていたら……。もしそうだったら、なにが面白いんだそんな新選組……。人が死なない大河ドラマなんてなにも面白くないよね……卑怯な作戦で相手を殺してこその新選組なんだから……。

 考えてみれば、相対主義は「みんなちがってみんないい」で争いを消し去る主義なので、とりわけ男子が好むような物語は、相対主義が採用されたら軒並みつまらなくなりますね。「人類も巨人も、みんなちがってみんないい」「青銅聖闘士(ブロンズセイント)も黄金聖闘士(ゴールドセイント)も、みんなちがってみんないい」「嬴政も羌瘣も蒙驁も麃公も肆氏も録鳴未も楊端和も、みんなちがってみんないい」と和気あいあいやっていたら、「進撃の巨人」も「聖闘士星矢」も「キングダム」も人気低迷で連載が終わってしまいそうです。敵同士が互いを尊重する少年マンガなど、誰が読みたいものか。

 が、しかし、物語と現実社会は別です。

 娯楽のストーリーで思い切り対立を楽しむ分、現実の世界では相対主義に基づき対立せず干渉せず自分の好みに従って自由に生きる。

 主義としてはもっとも古いもののひとつですが、価値観の多様化した21世紀にこそ最大の効用を発揮するのが、この相対主義だと言えるかもしれません。

 
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