米Wall Street Journal紙は16日、「民主党内の反乱鎮静化、だが、バイデン再選への展望より困難に」と題する以下のような解説記事を掲載した:
「トランプ銃撃事件は、バイデン大統領の今後の政治展望に尋常ならざる影響を与えつつある。それは、バイデン撤退コールを一時的に冷却させると同時に、11月大統領選での勝算を減退させる可能性を持っている」
「事件以来、何人かの民主党下院議員は、バイデンを選挙戦から撤退させようとする動きにはずみがつき始めたかに見えたが、今や勢いを失いつつあることを認め、別の議員は『バイデン氏のメンタル面でのよほどの衰えが今後表面化しない限り、来月党大会までに彼を他候補に差し替える時間的余裕はなくなりつつある』と語る。現に去る13日以来、民主党議員は誰一人、バイデン撤退を求めていない。(中略)また、撤退要求の“時間切れ”を待つのが今のホワイトハウスの戦略だとする見方もある」
「その一方で、現段階で撤退コールが一時停止しているものの、依然、大統領選で民主党が勝利を期すためにも、候補の差し替えが不可欠と考える議員が少なくなく、複数の民主党政治献金者や議員スタッフは、共和党大会終了後に再びその動きが息を吹き返すとみている。ウェルチ上院議員も『撤退要求は一時停止したにすぎず、終息したわけではもちろんない。いずれにしてもわれわれにとっての問題は解決したわけではなく、できるだけ早いうちに候補差し替えの可能性について結論を出す必要がある』と語っている」
「しかし、現実論に立つかぎり、今後、バイデン氏が撤退するための窓が急速に狭まりつつあることも事実だ。民主党大会ルール委員会当局が、来月の候補指名党大会を待たず、近日中にも、全米各州民主党代議員のオンラインでの『点呼』による『バイデン指名』を確定させようとしていることもひとつ挙げられる。ただ、堂々とオープンなかたちで最終候補を決める例年の党大会の熱狂と盛り上がりを欠くことになるだけに、反発する声も少なくない」
ウォールストリート・ジャーナル紙と同様に、米NBCテレビのカール・リー報道局長も去る16日放映の解説の中で「バイデン撤退コールはまるで遠い過去(ancient history)のようになってしまった」とコメント、トランプ銃撃事件以来、民主党が混迷に陥っている状況に言及した。
選挙戦を戦う姿勢を崩さないバイデン
さらに問題を複雑にしているのが、バイデン氏本人がTV討論会後、最近に至るまで撤退の意思を全く見せておらず、かえって11月選挙まで本腰で戦い続ける姿勢を前面に押し出しつつある点だ。
一部には、議会民主党内で最も影響力があり、年齢的にも“先輩”にあたるナンシー・ペロシ議員(前下院議長)が水面下でひそかに「自主的撤退」に向けてバイデン氏に働きかけているとの観測も伝えられているが、今のところ、バイデン氏の言動には、目立った変化は見られない。
最近では去る12日、接戦州のひとつであるミシガン州デトロイトの遊説先で選挙演説に臨み、「今国民が関心を寄せるべき対象は、過ぎ去った過去のTV討論会評価ではなく、米国の将来にある。トランプはわが国にとっての脅威であり、(ロシアのような)専制主義国家の同朋だ」「かつてトランプに勝利した政治家は私のみであり、今回も必ず彼を打ち負かす用意がある」などと熱弁をふるった。
16日には、やはり接戦州であるネバダ州に移動、ラスベガスで開催された黒人たちの全米組織「NAACP」年次総会での演説で、トランプ銃撃事件に言及、共和党が伝統的に反対してきた銃規制の重要性を改めて力説した。
同時に、①民主党は黒人の地位向上と差別撤廃に多大な貢献をしてきた、②今後も、黒人の失業率低下、雇用拡大には民主党への支持が欠かせない――などとして、大統領選での自分への投票を呼びかけた。