ルピー建て収入が死蔵されているのか
このように、確かにインドはロシアのウラル原油を割安に調達しているものの、その価格はG7が設定した上限価格の60ドルをしばしば上回っている模様である。かくして、ロシアは石油輸出を通じて戦費を確保し続けており、インドはそれに欠かせない主力市場となっている。
ところが、ロシアのインド向け石油供給に関し、輸出量や価格とは異なる、重大な問題が23年春頃にクローズアップされた。インド企業は中東産油国には米ドルで原油代金を支払っていながら、ロシアに対してはインド・ルピーで払おうとする。ところが、ロシア側がルピーで輸出収入を得ても、為替管理の厳しいインドではルピーを国外に簡単には持ち出せず、かといってインドから輸入しようにも同国にはロシアの食指が動く魅力的な商品が乏しい。
結果、ロシアの石油会社はインドの銀行口座にルピー資金を溜め込み、それを処分できずに苦慮している。このような問題が持ち上がったのである。
インドの口座に死蔵されたルピー資金は一時期、少なくとも80億ドル相当に上ったようである。インド向けの石油輸出量や名目的な価格が堅調でも、現実にはインドからロシアには外貨は流入せず、ロシアの外為市場では外貨需給の不均衡が続き、ルーブル安に繋がっていると指摘された。
しかし、24年春頃までには、ルピー死蔵問題は解消に向かったようである。ロシア側はインドからの輸入を拡充したり、インドへの投資に動いたりしたとされる。また、ルピー資金を用いてインドで金の宝飾品を買い、アラブ首長国連邦(UAE)にそれを持ち込み、UAEで地金にして現地で売却するといった形で外貨換金するスキームも考案されたということである。
ルピーに代わる通貨で送金を〝改良〟
さらに、最近になり、そもそもインドは現時点ではロシアにルピーで石油代金を支払っていないという有力な説が唱えられるようになった。ロシアの有力経済メディア「RBC」が7月4日付で伝えたところによると、インドがロシア産石油への支払いに用いている通貨は図4のようになっているとのことである。ルピーの死蔵問題が浮上した23年春まではともかく、少なくともここ1年ほどはルピーによる支払いは行われていないようである。
RBCによると、ルピー建ての石油輸出収入が死蔵されているとの問題は、欧米のマスコミにより誇張された面があった。決済にルピーが用いられるのは、ロシアからの石油輸入というよりも、むしろ軍需製品の輸入に対してである。
石油の決済では、露印双方にとって受入可能なUAEディルハムの利用が増えている。ロシアは地政学的な理由で米ドルを避けたく、一方で人民元を用いるとインド・ルピー→香港ドル→人民元という二度手間の転換でインド側のコストが高まるので、両者にとりUAEディルハムが丁度良い落とし所となっている。
確かに、一時期は無為に蓄積されるルピー資金が問題視され、23年5月には露印が二国間貿易決済のルピー化に向けた作業を停止する一幕もあった。しかし、両国はインド・ルピーとロシア・ルーブルの転換、両国間の送金につき常に改良を進めていると、RBCは伝えている。
ロシアとインドの経済関係は、問題を孕みつつも、着実に発展を遂げているようである。国際社会にとって、喜ぶべきことではないが。