2024年11月21日(木)

JAPANESE, BE AMBITIOUS!米国から親愛なる日本へ

2024年8月29日

実用化のケースは
日本でもこれだけある

 真紀氏は、実用化を見据え、日本での活用方法も本気で考え始めている。

 「一つには都市と地方の移動で、新幹線と空飛ぶ車を組み合わせて結ぶことです。日本は自然の宝庫で、素晴らしい地方がたくさんある。例えば、静岡県在住の人が新潟県の佐渡島に行く場合、まず東京まで新幹線で行き、乗り継いで新幹線と航路を使うと7時間ほどかかりますが、東京から空飛ぶ車を使えば、1時間半に短縮できます。これにより、人々の行動範囲は格段に広がるでしょう。また、都心のヘリパッドから地方の旅館を直結すれば、移動そのものがアトラクションになり、日本人のみならず、外国人観光客にも歓迎されるはずです」

 もう一つは災害対応である。

 「災害時の物資搬送などにも大いに活用できます。ドクターヘリの代わりにもなります。しかも、自動車としても活用できますから、ヘリコプターでは行けないような場所にも行けるようになる。これこそが、本物の空飛ぶ車、陸空両用の強みなのです」

 「ASKA A5」の予定販売価格は1機78万9000ドル。「現在、先行予約注文の多くは在米の企業や個人からですが、日本の観光関連企業からも予約をいただいており、手応えを感じています」と真紀氏は言う。

 これまでの開発費用は、ほぼ、「自費」で捻出してきたという。しかも、ASKAの空飛ぶ車の90%以上の部品はインハウスで製作しており、オフィスに併設されている工場に足を踏み入れると、さまざまな工具や工作機械、3Dプリンターなどがあり、まるで町工場のようであった。

 さらに驚いたのは、ASKAの社員の中には、かつて「MRJ」の開発に携わっていた元三菱重工出身の技術者が4人もいたことだ。彼らは「ASKAでは設計ベースから製造ベースまで、新しいことにチャレンジできる。意思決定も早く、自分の意見も反映される。働いていて、本当に楽しいです」と屈託のない笑顔で話してくれた。しかも、その顔は明るく、やる気と活気に満ちあふれており、ASKAはまさに、「坂の上の雲」を目指す、古き良き時代の日本企業そのものであるように思えた。

 一方、低迷する日本企業の中には〝シリコンバレー信仰〟が根強いが、真紀氏はこの状況をどう見ているのか。

 「もちろん、シリコンバレーには卓越した能力を持つ経営者や技術者がたくさんいます。だからといって、シリコンバレーに行くことだけを目的にすべきではありません。私たちはここにいることを重視するより、『空飛ぶ車を通じて、人々の生活の質を向上させたい』という大きな目的を持っています。起業家になることはあくまでも手段です。自分たちは何を成し遂げたいのかという大きな目的、志が先にあるべきです」

 正鵠を射た見解である。私は、ASKAの強みとは、シリコンバレーに所在していることではないと思う。真紀氏の掲げる大きな目的の実現に向け、前を向き、ひたむきに努力する仲間の存在こそが同社最大の資産であり、強みなのであろう。

 「必ず飛んでみせる!」

 ASKAで働く人たちの思いはこの一言に尽きる。ASKAの空飛ぶ車が近い将来、縦横無尽に、空を、地上を、行き交う日が来ることを信じたい。

真紀氏の右隣が夫のガイ氏。スタッフの笑顔がまぶしかった。彼らは撮影後「ASKA A5」を車で牽引し、飛行テスト場に向かった(WEDGE)

 日本人のわれわれにできることは、ただ、その日を待つだけでなく、ASKAを活用して「どういう日本にしていきたいか」を大いに構想、議論して、社会実装を後押しすることではないか。それこそが、ASKAで働く人たちの活力につながり、最大級のエールとなるはずだ。


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