2024年11月23日(土)

キーワードから学ぶアメリカ

2024年8月16日

 他方、左派には、格差是正などの経済問題を重視する人々、黒人やマイノリティ、ジェンダーやセクシュアリティをめぐるアイデンティティを重視する人々、環境問題を重視する人々など、さまざまな勢力が存在する。その中でも、経済問題重視派とアイデンティティ重視派に注目が集まることが多いが、両者は必ずしも折り合いがよいとはいえない。例えばサンダースは経済格差の是正を目指す立場だが、かつては人種やジェンダー、セクシュアリティをめぐって問題発言を繰り返していた。

 選挙の際に左派は穏健派、そして共和党への対抗を目指して協調するが、権力の座につくと利益集団の連合体としての側面が浮上し、対立が鮮明になる。例えばアレクサンドリア・オカシオ=コルテスはサンダースの選挙戦で経験を積み、当初経済左派として自らを売り出したが、議員になるとアイデンティティ重視派となって経済についてほとんど勉強しなくなった。そのため、経済左派の中では不信が募っているといわれている。

 このように、穏健派、左派といっても、それぞれが一枚にまとまっているわけではなく、内部対立は大きく存在しており、これが党内での混乱を生んでいる。

 また、これらのカテゴリーは相対的であり、穏健派対左派という対立の構図におさまらない人物も存在する。2028年の大統領選挙の有力候補になると期待されているカリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムは、経済的な意味ではニューデモクラットの立場をとっていて、労働組合や経済左派と相いれないところがある。他方、サンフランシスコ市長の時代に米国で初めて同性婚を認めた点で、アイデンティティ重視派の支持を得ている。

シネマはなぜ、離党したのか

 今日、党内での最大の対立は穏健派と左派の間に見られている。20年大統領選挙で左派がバイデンにさまざまな圧力をかけた結果、バイデンは左派寄りの立場をとるようになった。ただバイデンは、場合によっては共和党との協力も必要だと考える現実的な政治家であるため、左派の意向に完全に従っているわけではない。

 バイデン政権と民主党多数議会は米国救済計画法、インフラ投資法、インフレ抑制法という大型法案を通し、コロナ対策、インフラ投資、気候変動という3つの主要公約の法制化に成功した。だが、左派の圧力を受けて公約とした学生ローンの返済免除政策は広汎な支持を集めるのが困難で、連邦最高裁判所が違憲判決を出す可能性も考えられたため、法律としてではなく大統領令での実施を目指した。そして、実際にこの返済免除政策には違憲判決が出されたのである。

 そして、党内で左派が大きな影響力を持っていることに不満を持つ人がいる。例えば、アリゾナ州選出のキルステン・シネマ上院議員はインフラ投資法、インフレ抑制法の審議過程で党の方針に疑問を呈し、民主党から離脱して無所属となった。

 アリゾナ州は08年大統領選挙で共和党候補となったジョン・マケインが長らく上院の議席を有していたことから分かるように、保守的な傾向も強い激戦州である。そのような州で民主党候補が上院議員選挙で勝利するには左派的なスタンスを取るわけにはいかないことを党指導部は理解しているが、リベラルな大都市に居住している民主党支持者の多くはシネマを批判していた。


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