2022年7月7日(木)

安保激変

2013年12月31日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

明海大学外国語学部教授

日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障、日米同盟、インド太平洋の国際関係。主な共著に『アジアの国際関係―移行期の地域秩序』(春風社)など。
 

 参拝自制を求めるアメリカ側からのメッセージが、安倍首相に届いていなかったはずはない。10月にケリー国務長官とヘーゲル国防長官がそろって千鳥ヶ淵戦没者墓苑で献花をしたことも、12月初旬にバイデン副大統領が訪日したことも、安倍首相の靖国参拝を牽制する意図を含んでいたことは明らかだ。オバマ政権は春の大統領の訪日の可能性もほのめかして、安倍首相の外堀を埋めようともした。日本側にも、アメリカの「外圧」を利用して、安倍首相に靖国参拝を諦めさせようという考えが一部にあった。

 だが、オバマ政権は、靖国参拝を「国民との約束」とする安倍首相の信念を過小評価した。安倍首相は就任直後に米誌のインタビューで、靖国神社をアーリントン国立墓地になぞらえ、今後も参拝を続けると明言していた。にもかかわらず、たとえば国務長官と国防長官が千鳥ヶ淵を訪問したのは、真正面から安倍首相の面子をつぶすやり方だった。小泉純一郎首相が靖国神社に参拝しても、ブッシュ前大統領がこれを決して公然と批判しなかったのとは対照的だ。

 オバマ政権は、安倍首相が「国民との約束」を反故にしてまで参拝を見送れるよう、真摯に安倍首相を説得するべきだったのに、そうしなかった。安倍首相は、普天間飛行場の移設に進展をもたらした上で、アメリカにつぶされた面子を保つためにも「国民との約束」である靖国参拝を優先したのだろう。

 もちろん、国際的な批判を招いてまで、安倍首相が靖国参拝にこだわるべきだったのかという疑問も残る。靖国神社は、明治維新以降の国難に殉じた先人を祀っている。英霊に敬意を払うことはまさに心の問題である。だが、一宗教法人に首相が参拝することに関しては、憲法の政教分離の原則との整合性の問題を指摘する声がある。しかも、靖国参拝は不幸なことに外交問題化してしまった。参拝の目的が「不戦の誓い」であることを、国際社会に伝えることは困難だった。

国民にとって靖国参拝は最優先課題ではないはず

 果たして靖国参拝は「国民との約束」だったのだろうか。世論が安倍政権を支持しているのは、何よりも経済再生に関わる政策である。今回の靖国参拝を国民が支持するかどうかは世論調査が出そろうのを待たなければならないが、国民にとって最優先課題ではないだろう。

 安倍首相は残りの任期中に靖国を参拝する必要はない。仮に今回の参拝を国民の過半数が支持するなら、すでに「国民との約束」を果たしたことになる。過半数が支持しないのなら、「国民との約束」ではなかったということだ。いずれにせよ、残りの任期はアベノミクス「第三の矢」である構造改革を通じて、経済再生に全力を注ぐべきである。靖国問題がここまで政治問題化した以上、新たな英霊の称え方についての議論も行っていくべきだろう。

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