カギとなるコストダウンの可能性だが、例えばチリで生産した再エネ由来のグリーンアンモニアをわが国の石炭火力で混焼した場合のケーススタディと中国のグリーンアンモニアの生産コストを比較すると、チリのグリーンアンモニア(470ドル/トン)に比べ、中国国内では319ドル/トンと32%安価に生産できるようだ。また中国は太陽光パネルと電解水素発生装置を組み合わせたパッケージ輸出にも注力しているようで(輸出先としては中東など)、電解水素発生装置についても大量生産による規模の経済性を活用したコスト低減という、これまで中国が実現してきた勝ちパターンの再現を狙っているように見える。
とは言え、24年6月時点で中国国内のグリーンアンモニアの(計画中含む)生産能力は1188万トンに過ぎず、22年の中国のアンモニア生産量6101万トンの2割程度に過ぎない(ちなみに中国のアンモニア生産量の世界シェアは33.5%に及ぶ)。そもそもCO2削減という点ではグリーンアンモニアを必ずしも石炭火力との混焼に用いる必要はなく、現状でアンモニアの7割が投じられている肥料生産に用いられるかもしれない。他方で、石炭火力の混焼という新たな用途への政策的支援の表明でグリーンアンモニア生産のプロジェクト着工率が急上昇している事実もある。
また原稿執筆時点で中国国内におけるアンモニア混焼と蓄電池のコスト比較に関する情報は見当たらないが、わが国に関する研究では蓄電池と水素混焼はエネルギー貯蔵と出力の形態の違いから必ずしも競合するものではなく、補完的な部分があるとの指摘もある。
日本もエネルギーミックスの検討を
以上、中国における火力のアンモニア混焼の経済性と今後のコストダウンの可能性について現状入手できた情報に基づき検討した。限られた情報からで確固とした見通しを得ることはできなかったが、火力の低炭素化に先鞭をつけたわが国を差し置いて、社会実装においては中国において大きく進んでいく可能性は高い。
何よりも中国では、再エネ発電事業者に発電余剰対策で一定の蓄電義務を負わせているのに加え、火力のアンモニア混焼(加えてCCS)という選択肢も伸ばすことで世界最大の導入量を誇る再エネの安定供給上の問題に対処しようとする現実的な戦略性に刮目すべきだ。再エネも火力もそれぞれのコストとベネフィットを(完全ではないが)反映したエネルギーミックスを中国は構築していこうとしている。
隣国の取り組みを直視し、脱炭素という掛け声の下で思考停止して闇雲に再エネ主力電源化を進めてきた、近年のわが国のエネルギー政策が見直されることを期待したい。