キャシー・コーニッシュ=トレストレイル、キートン・ストーン、エリカ・ゴーノール、サラ・ベル、BBCニュース
英ロンドンの老舗高級デパート「ハロッズ」で働いていた女性5人が、在職中に同デパートのオーナーだったエジプトの富豪モハメド・アルファイド氏にレイプされたとBBCに語った。
BBCは20人以上の元従業員の女性から、アルファイド氏からレイプを含む性的暴行を受けたという証言を得た。アルファイド氏は昨年、94歳で死去した。
ドキュメンタリー番組とポッドキャスト番組「アルファイド ハロッズの捕食者」ではさらに、アルファイド氏がハロッズを所有していた期間、同デパートはこうした加害行為を止めに入らなかったばかりか、加害疑惑を隠蔽(いんぺい)する手助けをしていた証拠を入手した。
ハロッズの現オーナーは、この疑惑に「まったくがくぜんとした」と述べた。また、被害者は見捨てられていたと述べ、謝罪した。
複数の被害者の代理を務める弁護チームの一人、ブルース・ドラモンド弁護士は、「この会社における腐敗と虐待のクモの巣は、信じがたいもので、非常に暗いものだった」と指摘した。
この弁護団は、20日に次の手続きについて発表する予定だという。
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注意:この記事にはつらいと感じ得る内容が含まれます
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証言によると、アルファイド氏による加害は、ロンドンのほか、仏パリやサントロペ、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビなどで行われた。
アルファイド氏がロンドンのパーク・レーンに所有していた邸宅でレイプされたという女性は、「私はその時、それが起きてほしくないとはっきりさせた。私は同意していない。ただ終わってほしかった」と語った。
別の女性は、ロンドンのメイフェアーの住居内でアルファイド氏にレイプされた際、自分は10代だったと話した。
「モハメド・アルファイドは倫理観のかけらもない怪物で、性犯罪者だった」とこの女性は語り、ハロッズの店員はアルファイド氏の「遊び道具」だったと付け加えた。
「私たちはみんな、とても怖がっていた。彼は積極的に恐怖心をあおった。彼が『ジャンプしろ』と言えば、従業員は『どれくらい高くですか』と聞いた」
アルファイド氏は生前にも性的暴行の訴えに直面していたが、今回の疑惑はかつてない規模と深刻さだ。BBCは、さらに多くの女性が暴行を受けた可能性があるとみている。
「彼は卑劣だった」
アルファイド氏の実業家としてのキャリアは、エジプトのアレキサンドリアの道端で、通行人に炭酸飲料を売り歩いたところから始まった。
その後、サウジアラビアの武器商人の女きょうだいと結婚したことで、アルファイド氏は新しいコネクションを構築し、ビジネス帝国を築いた。
1974年にイギリスに移住。1985年にハロッズを買収したことで注目を集めた。1990年代から2000年代には、テレビのゴールデンタイムの番組に定期的にゲスト出演するようになった。
1997年には、息子のドディ・アルファイド氏が、ダイアナ元妃と共に交通事故で亡くなった。若い世代には、英王室を描いた米ネットフリックスのドラマ「クラウン」で、その名を知られるようになった。
しかし、BBCが取材した女性たちは、アルファイド氏の気さくで社交的というイメージは、真実とはかけ離れていたと語った。
「アルファイドは卑劣だった」と、1988~1991年に秘書として働いていたソフィアさんは言う。ソフィアさんによると、アルファイド氏は一度ならず彼女をレイプしようとしたという。
「(アルファイド氏の良いイメージを聞くと)腹が立つ。彼をそんなふうに記憶するべきじゃない。それは彼の本当の姿じゃない」
女性たちの中には、取材を受けるにあたって匿名の権利を放棄した人、あるいは部分的に放棄し、BBCが名字を明らかにしないことで同意した人もいる。一方で、匿名を選んだ女性たちもいる。
女性たちの証言をまとめると、アルファイド氏による捕食的な行動と性的虐待のパターンが明らかになった。
アルファイド氏は、デパートの広大な売り場を定期的に巡回し、魅力的だと思った若い女性アシスタントを指名して、2階の自分のオフィスで働かせていたという。この証言は、男女を問わず複数の元従業員から得られた。
加害行為は、ハロッズ内のオフィスや、アルファイド氏のロンドンの邸宅、あるいは海外出張先で行われ、しばしばパリのリッツホテルや、近郊のヴィラ・ウィンザーでも起こっていた。
別の元従業員は、ハロッズでは何が起きていたかは明白だったと語った。
アリスさん(仮名)は、「私たちはみんな、オフィスのドアをくぐるお互いの姿を見ながら、『かわいそうに、今日はあなたなのね』と思っていたし、それを止める力が全くないと感じていた」と話した。
「彼は私をレイプした」
レイチェルさん(仮名)は、1990年代にハロッズで秘書として働いていた。
ある夜、仕事が終わると、レイチェルさんはアルファイド氏の高級アパートに呼ばれたという。ロンドンのハイドパークを見下ろすパーク・レーンにある建物は警備員によって守られ、ハロッズの従業員が常駐するオフィスがあった。
アルファイド氏はレイチェルさんにベッドに座るよう求め、彼女の脚に手を置いて、何を望んでいるのかはっきりさせたという。
「自分の上にある彼の体や、その重さを覚えている。あとは、彼が出す音を聞いただけ。そして(中略)頭の中で別の場所に行った」
「彼は私をレイプした」
BBCは、パーク・レーン60番地でアルファイド氏から性的暴行を受けたという13人の女性に話を聞いた。そのうち、レイチェルさんを含む4人はレイプされたと話す。
性的暴行を受けたというソフィアさんは、逃れられない悪夢のような状況だったと話した。
「私は去ることができなかった。帰ることができる実家はなかったし、家賃を払わないといけなかった」
「耐えなくてはいけないと思ったけど、そうしたくなかった。恐ろしくて、頭が混乱した」
2007~2009年にアルファイド氏の個人秘書の一人として働いていたジェマさんは、アルファイド氏の行動は海外出張中にさらに恐ろしいものになったと話した。
パリのブローニュ渓谷にあるヴィラ・ウィンザー(エドワード8世とその妻ウォリス・シンプソン氏がかつて暮らした邸宅)でレイプされたのが、その極みだったという。
ジェマさんはその夜、寝室で驚いて目が覚めたという。ベッドの隣にはシルクのドレッシングガウンを着たアルファイド氏がいて、ベッドに入ろうとしてきた。
「私は彼に、『いやだ、そんなことは望んでいない』と言った。彼はベッドに入ろうとし続け、そのうち私の上に乗ってきた。それで身動きが取れなくなった」
「ベッドにうつ伏せにされ、彼は私に体を押し付けてきた」
アルファイド氏にレイプされた後、ジェマさんは泣いた。一方、アルファイド氏は立ち上がり、攻撃的な口調で、消毒液で体を洗うように言ったという。
「明らかに、自分が私に近づいた痕跡を消したかったのだろう」と、ジェマさんは語った。
他にも8人の女性が、パリのアルファイド氏の所有地で同氏から性的暴行を受けたと語った。そのうち5人は、暴行はレイプ未遂だったと説明している。
「公然の秘密」
1994~2004年にハロッズで部長を務めたトニー・リーミングさんは、「女性に対する虐待については、自分が店頭にいたときから知っていた」と言う。一方で、もっと深刻な暴行やレイプの疑惑については知らなかったと話した。
「私が知っているならみんなも知っていると、そう思っていた。知らなかったという人は、残念ながらうそをついている」
リーミングさんの証言は、アルファイド氏の警備チームの元スタッフによっても裏付けられている。
「アルファイド氏が若い女性に非常に強い興味を持っていたことに、私たちは気づいていた」と、1979年にハロッズに売り場の監視員として入社し、1989~95年に警備副部長を務めたイーモン・コイルさんは言う。
1994~95年にアルファイド氏のもとで働いていたスティーヴさん(名字は非公開)は、警備員らは「ハロッズとパーク・レーンで、特定の女性従業員にあることが起きていたことを知っていた」と語った。
女性たちの多くは、アルファイド氏のもとで直接働くようになったとき、医師による侵襲的な性的健康検査を含む健康診断を受けたと語った。
これは福利厚生の一環とされたものだったが、診断結果はアルファイド氏に送られ、多くの女性たちは自身の診断結果を見なかったという。
2005年に役員秘書を務めていたキャサリンさんは、「私と寝るつもりでない限り、誰かが私の性に関わる健康状態を知ることに何のメリットもない。このことに今、背筋が凍る思いがしている」と話した。
「恐怖の文化」
BBCが話を聞いた女性たちはみな、職場で威圧されていたと感じ、そのために声を上げにくかったと述べている。
サラさん(仮名)は、「最下位の従業員から最上位の役職まで、店舗全体に恐怖の文化があったのは間違いない」と語った。
また、ハロッズの電話は盗聴されていると信じていたと語る従業員や、隠しカメラで撮影されることを恐れ、アルファイド氏の虐待について女性同士で話すことを恐れていたと言う女性もいた。
元警備副部長のコイルさんはこうした事実を認め、自分の仕事のひとつに、録音された通話テープを聞くことがあったと説明した。また、エグゼクティブ・スイートを含め、店内のいたるところに録画可能なカメラが設置されていたという。
「アルファイド氏は、盗聴したい人すべてに盗聴器を仕掛けていた」
ハロッズはBBCの取材に対する声明で、これらの行為は「権力を乱用しようとする」個人の行為であり、最も強い言葉で非難すると述べた。
また 「現在のハロッズは、1985年から2010年にかけてアルファイド氏が所有し、管理していた組織とはまったく異なるものであり、従業員の福利厚生をすべての活動の中心に置こうとしている」とした。
アルファイド氏の生前にも、その正体を暴露しようという試みがいくつもあった。特に雑誌ヴァニティ・フェア誌は1995年、人種差別や従業員の監視、性的不品行といった疑惑を取り上げた記事を掲載した。これは名誉毀損訴訟に発展した。
アルファイド氏はその後、同誌が裁判に備えて集めた、彼の性的不品行に関する証拠をすべて封印する限り、訴訟を取り下げることに同意した。この和解はハロッズの役員が交渉した。
1997年には英民放ITVの番組「ザ・ビッグ・ストーリー」が、性的嫌がらせ(セクハラ)や痴漢行為(性的暴行の一つ)など、アルファイド氏をめぐるさらに深刻な疑惑を報じた。
チャンネル4の番組「ディスパッチズ」は2017年、アルファイド氏による痴漢や暴行、ハラスメントの疑惑を放送。この番組では、初めて匿名権を放棄する女性が現れ、何人かの女性に名乗り出る勇気を与えた。その後、2018年にチャンネル4ニュースが調査を行った。
警察の捜査も届かず
ロンドン警視庁は、アルファイド氏に対する「長年にわたるさまざまな性犯罪の申し立てを把握していた」と認めた。
警視庁に報告された疑惑はそれぞれ「調べられ、必要な場合には検察庁に助言を求めた」という。
しかし、アルファイド氏が罪に問われることはなかった。
アルファイド氏が最も起訴に近づいたのは、2008年のことだったようだ。
エリーさん(仮名)はBBCの取材に対し、14歳だった時にアルファイド氏と初めて会い、個人的に仕事を与えられ、15歳からハロッズで働き始めたと語った。
2008年5月、エリーさんはハロッズの役員室に行くように言われ、そこでアルファイド氏に襲われたと語った。
「私を抱きしめて、体をこすりつけてきて、それから私の顔をつかんで(中略)舌を私の口に入れようとした」
「私が15歳だと言って、『何をするんですか』と言うと、彼は私が美しい女性になったと言って、私の胸をつかんだ」
アルファイド氏は、エリーさんに押し飛ばされた後に激怒し、叫び始めたという。
エリーさんは警察に通報し、アルファイド氏は事情聴取を受けた。このニュースは、2008年10月に公になった。
それから長い年月がたち、ロンドン警視庁は今月19日、エリーさんの通報を受けて複数の目撃者から話を聞き、電話データを分析したと明らかにした。警視庁によると、この件については検察に証拠ファイルを渡したが、検察はそれ以上の措置をとるべきでないと判断したという。
警視庁は、アルファイド氏が正式に取り調べを受けたのがエリーさんのケースだけなのかについては明言を避けた。BBCは、アルファイド氏が他の疑惑について取り調べを受けた証拠は見ていない。
BBCはまた、警察が検察に証拠ファイルを渡したのはエリーさんのケースだけだったとみている。
アルファイド氏に関する警察の捜査が進み、警察が検察に法的助言を求めるにまで至ったことは4回あった。
検察は2018年、2021年、2023年に警視庁に助言を与えたが、その際、警察は検察に証拠の完全なファイルを提供しなかった。また、これらの捜査がすべて別々の女性に関するものかどうかも定かではない。
つまり、アルファイド氏は生前、法廷で自分に対する疑惑に答えることを余儀なくされることはなかった。
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この記事の内容に影響を受けた方に、BBCはイギリス内での相談先を紹介しています(英語)。
また、日本の内閣府が、性犯罪・性暴力相談の相談先をこちらで紹介しています。
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現金と秘密保持契約
BBCのドキュメンタリーでは、前述のジェマさんが2009年、和解の一環として、秘密保持契約(NDA)に署名しなければならなかったことを明らかにしている。
レイプされた後、ジェマさんは弁護士に連絡し、セクハラを理由に退職するとハロッズに伝えたという。ジェマさんによると、その時点ではアルファイド氏による暴行の全容と、その深刻さを明かすことはできなかったという。
ハロッズはジェマさんの退職に同意し、すべての証拠をシュレッダーにかけてNDAに署名する代わりに、金銭を支払うと言った。ジェマさんは、証拠をシュレッダーをかける際にハロッズの人事部の従業員が立ち会ったと話した。
BBCの取材で女性たちは、ハロッズのジョン・マクナマラ警備部長(当時)から脅迫され、声を上げるのを止められたと語った。
BBCが話を聞いた女性のうち14人が最近、ハロッズに対して損害賠償を求める民事訴訟を起こした。同店の現オーナーは、女性たちにNDAへのサインを求めず、2023年7月に和解を開始した。
ソフィアさんは、ハロッズと合意に至るまでに5年を要した。ソフィアさんの場合、店は遺憾の意を表明したが、責任は認めなかったという。
BBCが取材した女性たちの代理人であるドラモンド弁護士とディーン・アームストロング弁護士は、ハロッズには安全でない労働システムについて責任があったと主張している。
「どんな職場でも、従業員の安全を確保する義務がある。間違いなく、ハロッズは女性たちを裏切った」とドラモンド氏は言う。
「だから私たちが介入している。ハロッズは性加害を防ぐために、実際何もしなかったからだ。同社は逆のことをした。同社は性加害できる状況を作っていた」
アームストロング氏も、「私たちは、ハロッズの上層部によって、明らかにこの問題をもみ消そうとする試みがあったと言っている」と付け加えた。
現在、さらに多くの女性がハロッズに対する法的措置を検討している。
同じく、何人かの女性の弁護チームの一員であるマリア・ムッラ弁護士は、以前は声を上げることに「絶対的な恐怖」を感じていた女性たちが、今では名乗り出るようになったと話した。
「この女性たちは、自分たちの身に起こったことに対して説明責任を果たさせ、自分たちの子供たちやその子供たちのために、将来こうしたことが二度と起こらないようにしようという運動の一部になりたいと思っている」
ハロッズはBBCに対し、「2023年に、アルファイド氏による長年の性的虐待の疑惑について新たな情報が出て以来、私たちはこれらの苦情を可能な限り迅速な方法で解決することを最優先にしてきた。このプロセスは、ハロッズの現従業員および元従業員であれば、現在でも利用可能だ」と述べた。
「過去を覆すことはできないが、このような行為が今後決して繰り返されないようにする一方で、現在、私たちが抱いている価値観に基づき、組織として正しいことを行う決意を固めている」
パリのリッツホテルは、「当ホテルの価値観に沿わないあらゆる行動を強く非難する」と述べた。
アルファイド氏が死去したとき、その資産は10億ポンド(約1890億円)を超えると推定する、未確認の報道があった。だが自分たちが声を上げる動機はお金ではないと、取材に応じた女性たちは話す。
ジェマさんは、「私は何年もの間、声を上げずに黙って過ごしてきた。今、このことを話すことが助けになることを願っている」と話した。
「私たちはみな、ここから回復し、癒やされることができる」
(英語記事 Mohamed Al Fayed accused of multiple rapes by staff/More sex attack claims against Fayed emerge)