2024年10月3日(木)

Wedge OPINION

2024年10月3日

 同様なことが小泉内閣時代にも問題となった。持続可能な年金制度の構築に向けた04年の年金改革の議論の結果、基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げる年金制度改正法が成立した。そしてこの法律の附則第16条には、所要の安定した財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で実施する旨が明記され、これが消費増税を含む税・社会保障一体改革につながった。来年の通常国会に、次期年金制度改正の法案が提出される見込みだが、恒久財源の必要な基礎年金の充実はわが国にとって急務であり、新政権は、論点を正直に明示したうえで国民的な議論を始めていく必要がある。

最大の経済対策は
国民の将来不安の軽減

 日本経済は長く続いたデフレ状況を脱し、賃金も上昇し物価も2%の目標を超える状況が続いている。しかし賃金が継続的に上昇していくためには、経済の生産性の向上が必要で、そのためには労働移動の円滑化やリスキリングなど労働市場改革を継続していく必要がある。

 筆者は、長く続いてきたわが国経済停滞の最大理由は、高齢者だけでなく若年層にも広がる年金・医療・介護に関する将来不安が個人消費を抑えてきたことだと考えている。将来不安を払しょくすることが、活力ある経済活動を生む経済対策となる。そのためには、恒久財源を確保しつつ、社会保障を持続可能にしていく不断の努力が必要となる。

 米国の長引くインフレの一因は、拡張的な財政政策を続けてきたことにある。わが国でも、規律なき財政政策が金利の急騰を招きインフレが本格化する可能性がある。いつやって来るか予測の難しい財政危機を訴えると、イソップ童話の「オオカミ少年」に例えられる。しかしイソップ童話をよく読むと、来ないと安心したとたんにオオカミ(国際投機筋)がやってきて悲劇が訪れる、油断を戒める物語であることが分かる。

 これから自民党総裁選挙や総選挙、さらには参議院選挙など「政治の季節」を迎える。政治家は、人気取りのバラマキ政策や苦い選択肢を忌避し、先送りにするのではなく、国民に「受益」と「負担」の問題を正直に語る必要がある。そして我々も、そのような政治家を信頼していくことが必要だ。

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Wedge 2024年10月号より
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

孤独・孤立は誰が対処すべき問題なのか。 内閣府の定義によれば、「孤独」とはひとりぼっちと感じる精神的な状態や寂しい感情を指す主観的な概念であり、「孤立」とは社会とのつながりや助けが少ない状態を指す客観的な概念である。孤独と孤立は密接に関連しており、どちらも心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。 政府は2021年、「孤独・孤立対策担当大臣」を新設し、この問題に対する社会全体での支援の必要性を説いている。ただ、当事者やその家族などが置かれた状況は多岐にわたる。感じ方や捉え方も人によって異なり、孤独・孤立の問題に対して、国として対処するには限界がある。 戦後日本は、高度経済成長期から現在に至るまで、「個人の自由」が大きく尊重され、人々は自由を享受する一方、社会的なつながりを捨てることを選択してきた。その副作用として発露した孤独・孤立の問題は、自ら選んだ行為の結果であり、当事者の責任で解決すべき問題であると考える人もいるかもしれない。 だが、取材を通じて小誌取材班が感じたことは、当事者だけの責任と決めつけてはならないということだ――

 


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