対中包囲網と米国の反応が契機に
いわゆる「靖国問題」を材料に各主要国を巻き込んで「日本包囲作戦」を展開して行こうとする中国の思惑がよくわかるが、問題は、中国が一体どうして、日本との全面対決も辞さずにしてこのような作戦の展開に踏み切ったのかということである。そこにはおそらく、2つの大きな理由があると思う。
理由の1つはやはり、中国は今までずっと、安倍政権の展開する「中国包囲網外交」に悩まされて来ていることだ。昨年5月9日に本サイトで掲載された私の記事「『安倍叩き』に見る中国の外交的敗北感」でも指摘しているように、安倍政権は発足以来ずっと、「対中包囲網」の構築を強く意識したアジア外交と世界外交を展開して来ている。それが大きな成果を上げて日本の国際的立場を大いに強化した一方、中国は自らの包囲網が徐々に出来上がっていく中で孤独感を深めた。
こうした中で、昨年末に安倍首相は突如、国際的にも異議の多い靖国参拝に踏み切った。中国からすれば、それこそ安倍政権の中国包囲網外交に反撃する絶好のチャンスとなったのであろう。
そして、中国政府に反撃として日本包囲作戦に実際に踏み切らせたもう一つの要因はやはり、米国政府の態度だった。
安倍首相の靖国参拝当日の26日、中国政府が日本に対する抗議行動を展開していたのと同時に、米国政府は在日米国大使館を通じて「日本の指導者が近隣諸国との関係を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」との声明を発表した。米政府はこれまで、小泉首相を含めた日本の首相の靖国神社参拝に公式に反対したことはなく、今回声明を出して批判したのは極めて異例の対応であると言える。
そして同じ日に、欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表も声明を発表して「地域の緊張緩和や中韓両国との関係改善の助けにならない」と、安倍首相の靖国参拝を批判した。
このようにして、国際的に大きな影響力を持つ米国政府とEUが口を揃えて安倍首相の靖国参拝を批判したことは当然、中国政府を大いに勇気づけたと思う。かつての小泉首相の靖国参拝時、中国の猛反発に同調したのは韓国くらいであったが、今回は、日本の同盟国である米国と、世界の主要国家の連合であるEUが批判の列に加わったというのは、中国にとっては望外な驚喜であるに違いない。そこで彼らは、日本に反撃する千載一遇のチャンスだと思ったのであろう。