2024年は年間6回ある「土用の丑の日」。しかし、ウナギはその日のためだけに存在するのではない。日本で獲れる「ニホンウナギ」は、環境省でも、国際自然保護連合(IUCN)でも、絶滅危惧種としてレッドリストに区分されている。なぜ、このような状況になったのか。そして資源を保全していくためには何が必要なのか─。
このプロセスを考えていくことは、実は様々な社会問題を考えることにもつながっていく。このほど、『日本のウナギ 生態・文化・保全と図鑑』(山と渓谷社)を上梓した、中央大学法学部教授で、保全生態学を専門とする海部健三氏に話を聞いた(聞き手/構成・編集部 友森敏雄)。
ピークの3分の1まで
減ったウナギの供給量
天然のニホンウナギの漁獲量は減り続けている。1960年代には3000トンを超える年もあったが、2023年には55トンまで減っている。これに養殖とニホンウナギ以外の種を合わせたウナギの供給量全体で見ても5万2280トンで、ピークだった00年の15万8094トンから3分の1程度になっている。
主要な減少要因は①過剰な漁獲、②環境の劣化、③海洋環境の変化の3つと考えられている。ニホンウナギは、グアムなどマリアナ諸島の西方で生まれ、その後フィリピン東方に移動し、黒潮に乗って日本など東アジアの沿岸にシラスウナギとなって接岸し、成長して産卵場所であるマリアナに帰るという降河回遊魚だ。広い海洋で生まれる魚の生態をつかむことは難しいが、ウナギはそのほかの多くの海産魚と比較すると、比較的理解が進んでいるとも言える。
問題は、ウナギがどの程度減っているのか、把握できていないことだ。資源としてのウナギを保全し、持続的に利用するためには、「再生産速度」≫「消費速度」という状態を維持していく必要がある。
そのためには、より詳細なデータが必要になる。例えば、漁獲量だけでは不十分で、資源量の変化を把握するためには、「漁獲努力量」と呼ばれる、「どのくらいの漁業者数で、いくつの網が稼働し、その稼働日数は何日だったか」といった情報を得ることが重要である。
詳細なデータが得られていないことで生じている問題の一つが「獲り放題」の問題である。日本、中国、韓国、台湾は「ウナギの国際的資源保護・管理に係る非公式協議」を行い、15年から「池入れ量」─養殖のために子どものシラスウナギを養殖池に入れる数量─について上限を設けることに合意した。日中韓台4カ国の上限は合計で78.8トンに固定されているが、実際の池入れ量は15年~23年の平均で45トンと上限の57%にとどまっている。