ロシアの対外宣伝に従事するセルゲイ・マルコフは、「新たな核ドクトリンによれば、ロシアはウクライナに対して核兵器を使用することが可能となる。ウクライナはクルスク地方を侵略している。それは、米国、英国、フランスの支援を得ている。従って、今やキーウを核兵器で攻撃することが可能となった」と述べた。
一方、ロシアの関係筋でも、核兵器を使用するという威嚇は非現実的であり、プーチンはウクライナに対する西側の支援に対抗するための他の方法を模索していると述べる者もいる。
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核ドクトリン拡大へのさまざまな想定
ウクライナ戦争においてロシアが多用している核威嚇に関連して、ロシアが核ドクトリンを拡大しようとしていることについての解説記事である。プーチンは現行の核ドクトリンよりもかなり広い範囲で核威嚇を行ってきた。今回の国家安全保障会議での発言はそれが具体化の段階に入っていることを意味する。
ロシアの現行の核ドクトリンは、ロシアが 20 年 6 月に公表した「核抑止分野における国家政策の指針」である。そこではロシアが核兵器の使用に踏み切る条件として、①ロシアやその同盟国の領域を攻撃する弾道ミサイルの発射の情報を得た時、②ロシアやその同盟国の領域に対して敵が核兵器など大量破壊兵器を使用した時、③核戦力の報復活動に関わるロシアの政府施設・軍事施設に対して敵が干渉を行った時、④通常兵器を用いたロシアへの侵略によって国家が存立の危機に瀕した時、を列挙している。
9月25日のプーチンの発言では、この4項目をどのように変更するかの詳細については触れられていない。上記の④をベースに内容を膨らませる可能性もあろうし、新たに5番目の項目を立てる可能性もあろう。
仮に後者だとすれば「非核兵器国による通常兵器による攻撃であっても、核兵器国の参加または支援がある場合には、ロシアに対する共同の攻撃と見なし、ロシアの主権に対する死活的な脅威となる場合には、核兵器の使用があり得る」といった考え方を示すことが想定される。
プーチンが示唆した核ドクトリン拡大の注目点は二つある。一つは、「核兵器国の参加または支援」がある場合には、直接に攻撃を行った非核兵器国(例えば、ウクライナ)のみならず、それを助けた核兵器国(例えば、米英仏)もロシアによる反撃の対象となること。二つ目は、その際の敷居は「国家が存立の危機に瀕した時」よりもハードルが下がり、「主権に対する死活的な脅威」のみで核使用に至りうることである。前者は米英仏に圧力をかける意図であり、後者は核威嚇と核ドクトリンとのギャップを解消する意図と考えられる。